第90話 きゅんっ!

「お姉ちゃんが迷惑をおかけしました……」


「気にしなくていい。キミは悪くないし、俺もお姉さんに悪いことをした」


 俺と陽花が気まずく笑い合う。先ほどの俺の言動を、陽花はどう考えただろうか?

 横合いでは、レイジが座り込む月花に手を差し伸べている。


「立てるかい? 陽花ちゃんのお姉さん?」


「やめなさいよ……私と手をつなぐと、お人形になるのよ……」


 気落ちした月花が、ふてくされて言ったが、レイジはまるで気にしない。


「ふーん?」


「っ……!」


 月花が目をつむった。まるで、人との繋がりに、怯えるように。

 ひょっとしたら魅了魔法の発動は、彼女の自由にならないのかもしれない。

 だが――レイジは何食わぬ顔で、ひょいと、月花を助け起こした。


「――え?」


「へえ、見れば見るほど……陽花ちゃんそっくりだな。だけど俺はお姉さんの方が……」


「え……」


「ははっ、肩肘かたひじはってるところ、可愛くて、好きだぜ」


 言うだけ言ってレイジは去っていった。月花は「な、なによ!」と、いじましくした。

「お姉ちゃんが、とても迷惑をおかけしました……」と陽花が繰り返して苦く笑う。


 雨降って地かたまる、ということかな、と、俺は投げやりな気分で笑った。

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