第89話 アスカ先輩のためならば!

「レイジくん!?」


 月花の首筋に刃が届く瞬間に、錆びた剣が俺の斬撃を跳ね返した。

 同時に魅了魔法チャームの効果が失われて、俺の身体に自由が戻る。

 どこからともなくあらわれて、月花を守ったレイジが、不敵に笑っている。


「へっ、青虎、女子供に刃を向けるとは、らしくないじゃねえか」


「そうだな。危ないところだった。助かったよ、ありがとう」


 持つべきものは友人だなと、俺は心の底から安堵して思った。


「ところでおまえ、補講はどうした?」


「ふっ、アスカ先輩のデートとあらば、俺はこの世の果てでも、はせ参じるぜ」


「答えになっていない……」


 サボってきた、という話だろうな。追加のペナルティが目に浮かぶようだ。


「先輩が帰った後、おまえが廃遊園地に行くのを見たからな。心配になったんだよ」


 レイジが真面目な事情を答えてくれる。

 なるほど、余計な迷惑をかけてしまったようだ。こいつにはひとつ借りができたな。


「あ、ありえない、な、なんなのよ、あんた?」


 腰を抜かしたまま立ち上がれない月花が震える声で、俺を見て言った。

 俺が普段は意識で抑えている無意識の言動が、よほど恐ろしかったらしい。


 説明してもよかったが、あえて語る話でもない。俺は陽花に声をかける。


「なんにせよ、キミ陽花が無事でよかったよ」


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