第88話 死ねと言っているんだ

「な、なんですって?」


「キミは美しい、だが、あの子はもっと美しい」


 俺の口は、自由にならない意識を置き去りにして、同じ言葉を繰り返した。

 そして、俺の口は、自由にならないそのままに、好き勝手なことを言う。


「美しいキミ、美しいあの子に捧げるために、キミの首をくれないか」


「は、はあ!?」


「死ねと言っているんだ」


 戸惑う月花を浅く笑って、俺は【偽虎】を呼び出した。

 身の危険を感じたのだろう、月花がサッと顔を蒼くしてしりぞく。

 身体を自由にできない俺の事情を知っている陽花が、あわてて忠告をさけぶ。


「お姉ちゃん! 魅了チャームを解いて! はやく!」


「だ、誰が解くもんですか! この子は私のお人形よ! 私の言う事を聞く……」


「そうだ。それでいいさ、美しいキミ……」


 横薙ぎの斬撃、かろうじて避けた月花が、転倒して、しりもちをつく。

 斬られた前髪が、はらりと地に落ちた。次はもう、避けられない。


「美しいキミ、その傲慢ごうまんの対価に、キミの首をもらっていくぞ」


「ち、魅了チャーム解除! 解除ったら、解除よ!」


「もう遅い」


 マズイ! 俺が焦ったその時に――“錆びた剣”が、斬撃に刃を嚙み合わせた

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