第87話 美しいキミ

「後悔するなよ、鶴山月花つるやまつきか


 その言葉を最後に、俺の身体は自由を奪われた。意識だけがふわふわしている。

 魅了魔法チャームで俺を支配した月花が勝ち誇って笑う。


「後悔? 私のお人形になった男の子が、いったいなにを言うんだか……」


「お姉ちゃん、なんで、なんでこんなひどいことをするの?」


 陽花が泣いていた。俺は意識の中で、胸を痛ませる。

 月花は、悪びれもせずに微笑んだ。


「妹がかっこいい彼氏を見つくろったら、欲しくなるじゃない? あはは」


「彼氏とか、そういうことじゃなくて! なんでこんなひどいことをするの!?」


「彼氏じゃないの? あ、そう。なら青虎くんに、言ってもらおうかな~」


 月花が俺を見た。魅了魔法で、俺に、何を言わせるというのだろうか?


「青虎くん、この姉を、鶴山月花を美しいと言ってごらんなさい」


「お姉ちゃん! ふざけないでよ!」


「ふざけてなんかいないわ。さあ、言いなさいよ、澄ました青虎くん!」


 月花が俺に命令する。そのとき……俺は望まず自分の口元がつりあがるのを感じた。


「キミは美しい、だが、美しいキミよ……」


「へ?」


あの子キミの妹の首は、もっと美しいよ」

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