第86話 これであなたは私のものよ!

「だ、だめ、です。お姉ちゃんの、手をにぎった、ら……」


 玉座に座る、陽花が苦しみをうめくように言った。


「逃げて、にげて、青虎くん……」


「あら、私の魅了チャームに抗うなんて、けなげねえ陽花。ふふふ、そんなに、こちらの青虎くんが大切なんだ?」


 苦しむ妹のすがたをみて、月花が笑う。姉の方は性格が悪いな。


魅了魔法チャーム、なるほど、それがキミの能力か」


「ええ、男の子も女の子もみんな私のしもべになる、それが私の魔法能力レベル8


 いまさら隠す素振りもなく、月花が握手を求めて、右手を差し出した。

 月花は性格が歪んでいるのだと、よくわかる。

 彼女はいたずらごころで、俺を魅了チャームするつもりなのだろう。


 だが、俺の口から出たのは、拒絶でなく、自分でも意外な感情だった。


「そうか。それは、つらい能力だな」


「……なんですって?」


「わかるよ。自分が望まず、誰にも望まれない、自分の手は、いまわしいものだ」


 俺は目を閉じて、うなずく。

 知った風なことを言う俺に、月花は嫌そうな顔をしたが、それも一瞬だ。


「わかった。握手をしよう。それで陽花を解放してやってくれ」


 俺は月花の手を取った。少し嫌な予感もしたが……たまには悪ふざけも良いだろう。

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