第85話 私と握手しーませーんか?

「おめでとう、わたしの課した試練に勝利し、あなたは見事、玉座の間にやってきた!」


 廃墟のお城に踏み入ると、玉座に座る女の子がいた。

 陽花と同じ顔をした月花……ではなく、陽花そのひとだ。


 ただし陽花はここまで見た男たちと同じくうつろな目をしている。

 正気ではないのだと、ひとめでわかる。


 陽花のとなりには、王者を補佐する大臣のように、月花が立っている。


「陽花になにをした?」


「お願いをして、従ってもらったの、ちょっと役者が欲しくってね」


「ふざけるのもたいがいにしておけ。いたずらにしては度が過ぎる」


 俺は月花をにらんだ。

 ふたりが姉妹の関係だとしても、親しき中にも礼儀ありだ。


「これはキミの魔法能力だな? 他人にあやつられて、いい気分の人間はいないぞ」


「そうね。でもま、大目に見てよ。かくいう私も、少し、あなたに興味があってね」


「興味? 俺に?」


「引っ込み思案の妹が、男友達をつくったと聞いたら、気になるでしょ?」


 ヒツジを見定めるオオカミのようなまなざしで、月花が笑った。

 これっぽっちも悪びれない。それが彼女の本心なのだと、よくわかる。


「とてもカッコいい青虎くん、お姉ちゃんと仲直りの握手をしてみない?」


 差し出された手には、悪意しかないとわかっていて、俺は頭を痛くした。

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