第77話 チェッカーはゆずれません

「そこでアクセル!? オーバースピードよ!?」


 さらに加速した陽花に、ココロがおどろいていた。


 最終コーナーは直角に近いL字カーブだ。

 コーナリング重視のマシンだとしても、減速しなければクラッシュをまぬがれない。


 もちろん、このコーナーを制した者が、チェッカーの祝福を受けるのだが……


「っ! もう無理ね!」


 付き合っていられるかとばかりに、ココロが減速ブレーキングする。


 その瞬間に、ふたたび、追う者と追われる者が逆転する。


 ギャラリーは熱狂以上に困惑していた。

 オーバースピードで曲がり切れるはずがない。


 誰もが諦めている時に、陽花は氷のような視線で前を見つめていた。


「ブレーキング! 今!」


 その時、陽花はコースから意図的にはずれ、悪路の“補正”でマシンを減速させた。

 当たり前ながら、悪路ではハンドリングが悪くなる。


 半ばクラッシュを前提とした博打ばくちだ。

 だが、ドリフトのような走法で、陽花は最終コーナーを……ついに曲がり切る!


「チェッカーを!」


 あぜんとするギャラリーを横目に、勝者は席を立った。


 コースレコード。親友ココロに勝利した陽花は、心の底から笑っていた。


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