第73話 コーナーで前はゆずれません

 結論から言うと、陽花はレースゲームが得意だった。


 飛ばし屋も飛ばし屋、さながらサーキットのアマデウスだ。

 女性にアマデウスという表現はどうかと思うが……

 最初、手加減してやるかと思っていた俺は愚か者だったと言える。


「ブレーキング!」


 ただ減速する時でさえ、陽花はノリノリの物言いでマシンを操った。


「青虎くん、そのコーナーはシフトダウンが直前で間に合いますよ!」


「そ、そうなのか?」


「こういうことです!」


 ギャンッッ! と効果音が出そうな勢いで、陽花のマシンがコーナリングする。


 俺はというと、壁にぶつからないように、安全運転をしていた。すまないな。


 ふたりで対戦をしていたのだが、気づけば半周以上の差をつけられて、俺が大差で負けている。勝負になっていない、赤子の手をひねるとは、まさにこのことだ。


 気づけば陽花のプレイングを見るために、小さな人だかりができていた。

 コースレコードを叩きだしたゴールの瞬間に、歓声が上がったのは当然と言えよう。


「お姉ちゃんがレースゲーム好きなんですよ。対戦相手をさせられて……」


「気づいたら強くなっていた、と」


「そんな感じですね~」


 人には得意なことがあるものだな、と俺は感心して思った。

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