第68話 オレじゃないッス

「いや、オレじゃないッス」


 アスカ先輩とは大違いの温度差で、稲荷先輩が答えた。


「え、そ、そうなの?」


「オレ、変身能力者ではあるけど、“頭”と“顔”だけなんっスよ。体型とか、性別の差は超えられないんっす。だから、たとえば――」


「あ、レイジくんになった!」


「と、男に変装するのは簡単なんっスけど、女性にはなり切れないんッス。というか、話がわからないんスけど、事情をお聞きしても?」


 元の顔に戻った稲荷先輩が、俺の方を見てきた。

 俺が昨日の朝の出来事を説明すると、稲荷先輩は、納得してうなずく。


「オレ、女性用の服なんて持ってないから、おもいっきり冤罪えんざいッスよ。それにそいつ、うちの制服を着てなかったんッスよね?」


「はい、そうです」


「なら他校の生徒じゃないんスか? そっちの方が自然だと思うッスよ」


「「言われてみれば!」」レイジとアスカ先輩が真剣におどろいた。


「キミら、ふつうに頭悪いッスよね。将棋って、頭使わないんスかね……?」


「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」


「青虎くん、キミも苦労してるんッスねえ……」


 やさしく俺の肩を叩いてくれた稲荷先輩の優しさが、身に染みると思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る