第60話 俺の望みは

 合宿が終わりに近づいてきた、ある日。


 俺は休憩時間に、陽花と話す機会があった。

 男女は別の組分けでトレーニングしているから、偶然の出会いだ。


「ほんと、すごかったですね」


「ん? なにがだろうか?」


「生徒会長に勝ったじゃないですか! 大金星ですよ!」


 勝負から数日が経っても、陽花はその話題に触れてくれる。

 興奮冷めやらぬ、といったようすの陽花に、俺は少し気恥ずかしく答える。


「能力勝負ではないからな、本当の意味で、勝ったわけじゃない」


「もう、青虎くんはすぐに、そういう卑屈を言うんですから!」


「謙遜だよ」


「いいえ、卑屈です! よくないですよ、そういうの」


 口では非難しながらも、陽花は明るく笑ってくれた。


 俺は卑屈か、そうだな、そうかもしれない。

 だが、今は少しだけ、本当に少しだけ、その霧が晴れたように思う。


 理由は決まっているさ。俺は陽花に聞こえないように、つつましく笑う

 生まれてはじめて、俺は自分の願いを自覚する。


陽花キミのおかげだ」


 キミの想いに応えたい。それだけが、俺の望みだ。

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