第59話 キミの勝ちだ

「負けましたね。お見事でした、青虎くん」


 戦いの後、ヒサヒト先輩がすがすがしい笑顔で近づいてきた。


 悔しさもあるだろうに、わずかも感じさせないのは彼の人柄かな。


「ヒサヒト先輩……」


「ひとつだけ、勘違いをしないでほしい、僕は本気でしたよ。本気で勝負して、本気でキミに敗れた。無能力者レベルゼロのキミが、レベル9に勝ったんだ」


「能力勝負ではありませんが」


「いいえ、誇ってください。それが敗者への手向けというものだ」


 ヒサヒト先輩はにこやかに言って、右手を差し出してくれた。


 握手を求められた俺は光栄に思って、その手を取った。


 健闘を称え合う俺たちに、観衆から雨あられと称賛の声が浴びせられる。


「ありがとう青虎くん、これで僕もまた、強くなれる」


「おーい! 青虎! やりやがったな!」


「あ、あの、おめでとうございます! 青虎くん!」


 飛び込んできたレイジが、よろこびいさんで俺の肩をこづく。

 陽花も、控え目ながら、俺の勝利を称えてくれた。


「奇跡を起こせる者には、よろこびを分かち合える仲間がいるものだ」


 ヒサヒト先輩が笑っていた。今だけは、俺もそう思う。

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