1221 時雨沢くんは震える 01

 もう明日がクリスマスだと差し迫っている。なのに、やってしまった。


 データが全部消えてしまった……!


 ボタンを押し間違えたらしい。こんなボンミスありえない……バックアップをとるようにしているのに取り忘れてるとか……。

 今から徹夜すれば……いやいや、徹夜は駄目だと言われている。せっかく健康を気遣われているのに失望させてはいけない。

 じゃあ、プロジェクションマッピングはどうする? 簡易版を作るか? もう榊山さんにも絹田さんにも完成したものを見せたのに?

 誤魔化しはできない。どどどどどうしよう。落ち着こうにも落ち着けない。

 あたたかい飲み物が落ち着くって、ばあちゃんが言ってた。僕の部屋にポットや電子レンジみたいなものは置いていない。電気の全てをコンピューターに捧げているからだ。たこ足配線なんかして、データが飛んでもいけないし。

 行き詰まった時には気分転換してみるもんさ、そしたら、ひょっといいことを思い付くこともあるって、ばあちゃんが言ってた。

 その時は『思い付くことある』なんて無責任だね、と言った幼い僕をはり倒したい。そんな腕力なかった。いや、そうじゃなくて。


 ゆっくりと深呼吸。

 ひとつ決心した。


 食堂でホットミルクを飲もう。

 無駄にガッツポーズなんか決めて、僕は真っ暗な廊下を歩き出した。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る