1219 斑尾くんは挑む 03

「ああああのっ」

「なに」


 気合いが空回りしている絹田に返せたのはたったの二文字だ。無愛想な態度だったことも、彼女を恐がらせてしまったこともわかっている。何とか治したいが、上手くできない。絹田が相手だとどうも調子が狂う。


「きょ今日、ですね。私、絶対、失礼なことしちゃうので、粗相がありましたら、ちゃんと、言ってくださいね!」


 言い切った絹田はふぅと小さく息を吐いている。


「別に」


 音にできたのは三文字。気にしなくていい、と続けることができなかった。

 絹田の表情は固まって、あはははと誤魔化すように笑って足を早める。怒らせないようにしよう、と呟いた声を良すぎる耳が拾った。

 行く所は事前に決めていた。この辺で一番のショッピングモール。念願の連絡先を手に入れてメッセージをやり取りして決めた。メッセージなら、伝えたいことを時間をかけてちゃんと伝えられる。

 下を向いて歩いていたら、ぶつかると口で伝えられないと苛立つこともない。

 案の定、歩道につきだした看板にぶつかりそうになった絹田の腕を引く。ひっと聞こえた悲鳴は無視をした。


「な、何か粗相を――」

「危ない」

「へ?」


 目とあごで看板を示せば、たれ目が丸になった。



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