1218 斑尾くんは挑む 02

 扉から人の気配がしたのに、なかなか入ってこない。

 三津は、ぱたぱたとスリッパの音をたてて遠慮なしに扉を開けた。

 待合せをしていた絹田だ。今日は牡丹色のようなセーターに茶色のスカートをはいている。


「ああ、それがこの前言ってた、ラズベリー色のセーターかぁ。キャラメルのスカートとよう合うなぁ」

「この色に一目惚れしたんです。奮発しちゃいました」


 絹田は照れた顔をしながらも、服を見せるように胸をはった。

 仕事柄、流行には詳しいとは思うが、色の感覚は難しい。ただの緑に見えても、ピスタチオやオリーブにライムと予想を越えたバリエーションがある。抹茶オレ色と名付けられているのには理解ができなかった。

 俺の存在を忘れた二人の会話がはずんでいる。


「景品いいの見つけられるとええなぁ。遅うなってもいいから、しっかり選んできてな」

「わかりました。頑張ってきます!」


 さっき門限は七時だとかぬかしたこと、忘れてんのか。

 俺の睨みに気付いた三津は手で口元を隠して笑っている。

 絹田は不思議そうに小首をかしげた後、俺の存在を思い出したようだ。あからさまに気まずそうな顔をしている。


「気を付けて行ってきてなぁ」


 能天気な声に見送られて、たそがれ荘を出た。



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