1217 斑尾くんは挑む 01

 一人だと暖房をつけるのがもったいなく感じる。人がいたら人がいたで、部屋が熱で暖まるだろうと考えてしまうから、結局は暖房をつけるのが面倒なだけだという結論になる。

 誰しもそういうことがあると思うが、俺は何をするにも面倒という言葉が最初に浮かぶ。

 行動するのが面倒、人付き合いも面倒、まどろっこしい奴を見るのも面倒。

 待ち合わせまで時間をつぶす用事を考えるのも面倒で、一時間も前から食堂待ち合わせ場所についていた。席について、携帯をいじる。


「聞いたでぇ?」


 何をとは訊き返してはやらない。

 三津みつは絶対にぜーーったいに答えないからだ。昔も今もはぐらかしたり、遠回しな言い方ばかりする。本当に面倒な奴だ。

 携帯から目を離さずに無視を決め込む。


「そぉんな、眉間にしわ寄せて、デートに行けるんかなぁ?」


 わざとらしい。甚だわざとらしい話し方だ。

 顔の筋肉がひきつるが、全力で気付かないふりをする。


「門限七時やからな」


 耳に息を吹きかけられながら言われた。

 もう我慢の限界だッ。


「んな掟ないだろ!!」


 相手の鼓膜を狙って叫んでやったのに、いつの間にか向かいの席に逃げていた管理人は俺を弄ぶように口火を切る。


「そんなこと言ったって、私だって大切なお嬢さん預かっとるわけやし、傷物にされても困るし」

「人をケダモノみたいに言うな!」

「実際、狼やったろ」

「そ う い う 意 味 じゃ な いっ」


 全力全霊で否定してやったが、相手には効き目がない。

 おぉ、こわっとつゆほども思っていないことを言いながら笑っている。本当にいい性格だ。

 もう一度、吠えようとした時に食堂の扉は開けられた。



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