1216 榊山さんは感づく 04

「そう言っていただけるのは有難いです」


 ごにょごにょと赤みの増したしぐれんは喜んでいる。あいもかわらず、伏せた瞳は忙しなく動いているけれど。

 たそがれ荘に続く道を三人で帰ることになった。殺風景な住宅街は雪でいっぱい。

 以前、雨男や雨女は感情のたかぶりで降る勢いが変わると伝え聞いたことがある。

 きっと、しぐれんの心は喜んでいる。そう思ったのは、街灯に照らされた雪がなぜかあたたかく見えたから。

 横を見れば、しぐれん。その向こうにきぬたん。二人の顔を見て、ふと胸に落ちてくるものがあった。

 もしかして――


「あの」

「何かな?」


 考え込んでいた私はしぐれんの呟きに反射で応えた。きぬたんも不思議そうな顔をしている。

 しぐれんはひどく緊張した様子で口を動かす。


「ぷろじぇくしょん、まっぴんぐを」


 そうだった。プロジェクションマッピングを見てくれと頼まれていたんだ。

 みみみみ、と寒さのせいか、しぐれんは同じ音を繰り返している。

 必死に目をつむるしぐれんと、はらはらと心配そうに見つめるきぬたん。

 うん、いいこと思い付いた。


「三人で見よー!」

「「さんにん?」」


 しぐれんときぬたんの言葉が重なった。

 仲がいいのはとてもいい。


「私、よくわからないから、若い二人で見る?」


 辞退を申し出るが、すごい剣幕できぬたんに止められる。


「いやいやいやいや、私が遠慮しますよ?!」

「なんで?」

「えーと、うーんと、ううーんと、たくさんの意見を聞きたいので三人で見ましょ! ね!」


 はっきりとは言わないきぬたんは、ね!としぐれんにも確認した。

 しぐれんも、こくこくと頷いている。二人は仲がいい。きっとそういう関係だ。

 今度、恋占いでもして上げようか。

 私は笑いを我慢することができなかった。



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