1215 榊山さんは感づく 03

 見覚えのある姿を見つけた。絹田きぬたんだ。

 大きく手を振ってみれば、あっちも気付いたようで振り返しながら駆けてきた。


「時雨沢さんのおかげで雪になりましたね」


 真っ赤な鼻で白い息なのに、嬉しそう。冬嫌いと等しく冬好きも必ずいる。きっと冬にいい思い出があるから。


「おかげだなんて言ってくれるのは絹田きぬたさんだけですよ。洗濯物は乾かないし、イベントごとは中止になるし、道路は滑るし、カビははえるし」

「ストップ! ストップ! すとーっっぷ!」


 この場の年長者として止めに入った。

 不安顔にどうやって声をかけようか考えているとすぐ横から加勢がくる。


「雨が降らないと畑仕事、とっても困るんです! ため池から水を引くのも大変なんですから。三津さんもほこりが舞わんから掃除しやすいって言ってました! 時雨沢さんは必要以上に気にされなくていいんですよ」


 しぐれんの伏せ顔が少し上向きになった。瞳にも光が戻ってきている。

 後もうひと押しだ。よし、私も加わろう。


「雨の日の静かな感じ好きなんだけどなぁ」

「わかりますわかります! 晴れの日も雨の日もあるから、どっちの良さもわかりますよね」


 私の言葉にすぐに乗ってくるきぬたんは愛くるしい。

 そんなことを考えながら、うんうんと何度も頷いた。




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