1213 榊山さんは感づく 01

 冬はきらい。初雪が降っていても、だだ下がりの気分は上がらない。

 どーしても、年末年始に上座で座らせた記憶がなくならないから。板間に分厚い座布団を敷いただけで、すきま風だらけで外と変わらないと思った。寒さが足先の熱を奪っていく。まるで、生きる力まで取られていくようだった。


「いくら火を焚いても寒かったなぁ」


 もしかしたら、都会の街灯の方があたたかいかもしれない。それぐらいにあの時間は寒くて冷たくてさみしかった。


「あの」


 声がかけられたような気がして振りかえる。


「おや、しぐれん。奇遇だねぇ」


 だから、雪が降ってきたのか。電車に乗っている時は気配なんてちっともなかったのに、彼がいるなら納得だ。

 時雨沢しぐれんは雨男だから、今日も真っ黒な傘をさしている。なぜか、彼はいつも自信が無さそうだ。斑尾まおまおにじめじめしていて鬱陶しいとも言われていた。

 真っ黒でのびきったクセっ毛をしてるけど、そうでもないと思うんだけどなぁ。


「奇遇だなんてそんな、たまたま、偶然、奇跡ですよ」

「あはは、相変わらず謙虚すぎやしない?」


 私が笑い飛ばせば、しぐれんは丸まった背中をさらに丸めて挙動不審になっている。


「クリスマスのプロジェクションマッピングができたので、見ていただけないかと」


 耳まで真っ赤にして早口に言われた。



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