1211 絹田さんは怯える 04
「で?」
斑尾さんは自然に訊いてきた。
で……? えーと、何を話していたんだっけ。
眉間の深い皺が復活する。
油断していた私は小さく悲鳴を上げてしまった。
一瞬固まった強面は、目線を外して耳の上をかき上げる。ふせられた鋭い目が現れた。細く息を吐いた後、獲物を見据えるような瞳を向けて訊きなおしてくる。
「で、景品は?」
そうだ、クリスマスパーティーの余興の話をしていた。景品をどうするのかって話になってたんだった。
「……こ、今度の日曜日に買いに行きます」
「一緒に行く」
「へ?」
「いっ しょ に い く」
いや、ゆっくりじゃなくても言葉の意味はわかってます。わかってますとも。
そうじゃなくて。
「もしかして、一緒って私と斑尾さんがですか?」
「他にもいるのか」
そう言いながら、しかめられた顔に震え上がる。
どうして、いつも私に厳しいの。女性嫌いかな。それとも私自身が嫌いなのかな。三津さんに対しては、もっと恐かったような?
「い る の か」
「いません!」
三津さんと同じ圧のかけ方に逆らえるわけがない。
ほら、と携帯を差し出される。
頭が状況に追いつけなくて、一瞬止まってしまった。恐る恐る斑尾さんの顔をうかがえば、すっごく力を入れている。仁王像に勝てそうだ。
急かされることもない、無言の時間だけが過ぎていく。
私も携帯を取り出せば、仁王像の顔が安心したようにゆるんだ。
もしかして、斑尾さんは口下手かな。思ったより、恐くない、かも……?
「ほら、よこせ」
金銭を要求するような低い声に私は震え上がって、でも何とか連絡先を交換して、その日は解散となった。
正直、日曜日の買い出しには一人で行きたい……。私、コミュニケーション能力に自信ないもん。
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