1210 絹田さんは怯える 03

 保村ほむらさんが欠伸を噛み締めながら入ってきた。かざされた手の間から出た炎が息で消される。


「ごめん、マスク忘れた。お茶っぱもらったら、すぐ上がるから」


 いつもなら防火マスクをしている保村さんは、気を抜いたら口から火が出る。マスクを失くしたら大変そうだ。


「まだ寝ないのか」

「ちょっと新商品の案が煮詰まってる」


 同い年で、入居した時も同じ二人は仲良しだ。ぶっきらぼうな斑尾さんも、口数の少ない保村さんも気兼ねがないせいか、会話のテンポがいい。

 詰まっていた息をこっそりと吐いて、二人の会話に耳を傾ける。


「お茶の葉きらすのも、お前らしくない。疲れてんだろ」

「あー、違うこと考えてただけ。問題ない」

「何だよ、違うことって」

「前、相談しただろ。クリスマスプレゼントの」


 保村さんは答えを濁した。私に視線をよこして話題を変える。


「パーティーの準備、順調?」

「そんな手の込んだことしないので、たぶん、大丈夫です。斑尾さんも手伝ってくれることになりましたし」

「そ。よかったじゃん」


 ふ、と笑った拍子に火が出そうになって、保村さんは苦笑する。手早く、ポットに葉をいれ、二人も早く寝なよ、と言い残して出ていった。

 シェアハウスだからと言って、皆が同じ生活時間というわけにはいかない。保村さんのようにパン屋に勤めると早寝早起きになる。朝食は食堂でとる決まりだ。仕事の日は朝四時に出ると言っていたし、三津さんは何時起きなんだろうと心配になった。



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