1209 絹田さんは怯える 02

 わ、私は、一人で何とかしますよ。斑尾さんの手をお借りするのはおこがましいというか。あ、全然! 迷惑とかではなくて!

 なんて、断るわけにも行かずに、私が返せたのはただの一言だ。


「ヨロシクお願いシマス」


 それだけ。

 雪を願うほど寒いのに、嫌な汗を感じた。

 なかなか会話が弾まないが、そこは大人というべきか、話をふってくれる。


「何すんだ?」

「ビンゴゲームにしようかな、と。皆、ルールを知ってるだろうし、コミュニケーションとか気にしなくてもいいだろうな、て」


 下手な説明を聞いてくれた斑尾さんは腕組みをして顎に手を当てる。腕捲りしたそでから、綺麗な筋が見えた。

 少しの間を置いて、また質問される。


「道具は?」

「この前、サークルでやったので借りようと思ってます」


 ふーん、サークルねと気のない返事の後、間が空く。

 考えている様子なので、私は下手に口を開かなかった。恐い人相で三津さんへの態度もあれだから、近寄りがたい人ではあるけれど、悪い人ではない。

 また、眉間に皺がよった。


「景品は?」


 悪い人ではない。悪い人ではない。

 そう言い聞かせる。私がビビりなのがいけないだけ。そう、普通の人、普通の人。ちょっと人相がちょっと個性があるだけだ。

 その証拠に返事を待ってくれている。眉間には三本の皺がしっかり刻まれているのは、ほくろみたいなものだ。うん。


「景品は――」


 答えようとする前に、食堂の扉が開いた。



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