1208 絹田さんは怯える 01

 冬に入るとどうしてこう、雪が恋しくなるのだろう。さむいさむいと言いながらも、ついつい白くてふわふわのものを求めてしまう。


「おい」


 ドスのきいた声に体が跳ねてしまった。悲鳴が上がらなかったことを褒めてほしい。それぐらい、恐いのだから。

 振り向くと、眉間に二本の皺が入った斑尾まだらおさんがいた。切れ長の目に私が映っている。


「おい」


 応えなかったことにお冠なのか、眉間の皺が三本に増えた。こんな凶悪顔なのに美容院に勤めているのだからびっくりだ。


「な、ナンデショウ」


 どもりはしたが、ちゃんと返事をした私、えらいと思う。


三津みつは何しろって?」


 一瞬も笑顔を見たことがない顔がすごんできた。おしゃれなツーブロックマッシュが台無しだ。

 私は視線をどこに合わせればいいかわからず、でも斑尾さんに合わせるわけにもいかず、それでも何とか口を動かす。


「当日の余興の準備を――」

「は?」


 言い終わる前に遮られた。

 逃げ出さなかった私を褒めてほしい。いっそのこと、助けてほしい。チッと大きな音に、一歩、後ずさった。


「お前を手伝えって言われた」


 頭がフリーズしてしまう。理解が追い付かない。


「……お前、とは?」


 確認のために訊いただけなのに、キツく睨み付けられる。


絹田きぬたのことだよ」


 ぶっきらぼうに呼ばれた私の名前を聞いて、目眩がした。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る