第20話 進化したイヴの力


「うおぉおおおああああっ!!」


 ゴウンッ!!



 遠心力を加えた槍の一撃を放ち、その威力は巨大な風を巻き起こす。


 吹き飛ばされて体勢を崩した盗賊達は浮き足立った。


「うぁああっ、つ、強いッ!」


「狼狽えるなッ! 動きが煩雑だ。槍術のスキル無しに力任せの攻撃をしているに過ぎんっ」


「隙だらけの攻撃だッ。分散して潰せッ!」


 大ぶりの攻撃は連携を取り始めた盗賊に当たらなくなっていく。


 武器を振り回し、狙い澄ましても避けられてしまう。



「隙有りだッ! 一斉攻撃ッ!!」


「しまったっ、うぁああああっ」


 ガィィイインッ!!


「な、なんだとっ!?」


 六つの刃が一斉に襲い掛かり、首、腕、胴、腿(もも)、足首へと突き立てられる。


 襲い掛かってくるであろう痛みに備え、身を縮めるイヴだったが、その痛みがやってこない。


「ぐっ、これは……」


 イヴの身体を切り裂こうとした盗賊達の武器は、光を発して衣を纏った膜に阻まれる。


 それはファガンが渡してくれた腕輪のおかげであると、すぐに気が付くことができた。



「アーマーバンクルのおかげ。ありがとうファガンッ」


「な、なんて硬さだっ。鎧も着けていないのにッ!?」


「どうなってやがるッ!?」


「はぁあああっ」


「ぐああああっ!!」


 再び槍を振り回し、囲っていた盗賊達は吹き飛ばされる。


「大ぶりの攻撃は不意打ち以外じゃ不利だわ……どうにかしてっ……」


「イヴッ!!」


「ファガンッ!?」


 声のするように視線を向ける。ファガンは迫り来る盗賊達の群れを軽々といなしながら声を張ってアドバイスを送った。


「ブレイブリングウェポンは意志の力を読み取る武器だッ。どうやって戦いたいか具体的にイメージすればその形状を合わせてくれるっ」


「形状を……そうかっ!」


 イヴの意思は敵の姿を確実に捉え、次なる攻撃を明確にイメージする。


「素早く、一人一人を確実にッ」


 槍状になっていたウェポンが光を帯び、その形状を再び変え、一振りの刃をその手に握らせる。


「防御は大丈夫。だったらっ!!」


 剣を扱うスキルは習得している。

 ショートソードの扱いは経験が少ないが今の間合いだとこの武器がベストだった。


「はっ!」


 だがいくら経験が少なくても、剣術スキルは習得しているし、タイミング的に外しようがなかった。


「ぐえっ!」


 流れのままに刺突を繰り出し、貫通した盗賊の喉元を掻き斬る。


 首を切られた男はその場に崩れ落ち、イヴはその死体を蹴り飛ばして後ろから走ってくる盗賊にぶつける。


 有り余ったパワーで蹴飛ばされた男の身体はいとも簡単に吹き飛び、突進しようとした盗賊のバランスを崩すことができた。


「ッ!?」


 その時、イヴに明確な変化が起こる。


(これ、剣スキルが上がってる? あれっ、いつの間にか槍術のスキルもっ!?)


 よく見ると倒した敵から舞い上がっている緑の光が自身の身体に少しずつ吸収されている。


「これって一体……。いや、今は考えてる場合じゃないっ!」



 能力の上がったイヴの猛攻が始まり、明らかに動きのレベルが上がった敵に驚愕する野盗達。


「たぁあああああっ!!」


「なんだっ、さっきまでと動きが違うぞっ」


「くそっ、もう一回だッ! 攪乱して攻撃しろっ! 一斉攻撃をすると反撃されるぞ。注意を惹き付けて少人数攻撃を繰り返せっ。デタラメな防御力もカラクリがある筈だッ! 徐々に耐久力を削っていけッ」


(訓練されてる。やっぱりこいつらも天神族の手先。だったらっ、こっちから打って出るッ!)


 ヒット&アウェイをしようとしてくる盗賊に対して一瞬攻勢を緩めるイヴ。


 急に動きを止めた少女に一瞬戸惑い、その隙を突かれて一番近くにいた一人が脇腹を切られた。


「ぐあっ」


(浅かった……もう一撃ッ)


 追加で攻撃しようとすると横からの相手に邪魔をされる。


 周りをよく見て一人に近づこうとすると回避され、決定的な攻撃をさせて貰えない。


(リーチの短い剣ではダメね。もう一度槍で……いや、いっその事それ自体をフェイントに)


「はぁあああっ」


 イヴは武器を引いて片手を突き出した。


「馬鹿めッ」


 できるだけ避けやすいように真っ直ぐ突き出し、ワザと避けさせる。


(今だッ!)


 ブレイブリングウェポンに強く念じ、刃が逆向きに伸びているハーケン型の武器に変換する。


「せいっ!!」


 力の限りハーケンを引き、脇腹に掛かった刃が胴体を両断する。



 やはり盗賊はグリーンの光に包まれ、その輝きが自身に吸収されている。


 今度は槍に変換し、重い武器の重量感が両手にズッシリと伸し掛かる。


「くそっ、なんだあの武器はッ!? 仕方ないッ。人数使ってたたみ掛けろッ」


 遠距離攻撃や魔法攻撃がないのにが幸いした。恐らく奴隷として捕まえる為に殺す人数を絞りたいのだろう。


 だが特攻覚悟で一斉に突っ込まれるとまた対処が難しくなってくる。


 脳細胞を総動員してどうするべきか考える。


 その時、今までの自分では決して意識することのなかった感覚神経が腰の辺りに伸びていることに気が付いた。


(そうだっ、私、羽根が生えたんだ)


「うおおおおぉおっ!」


 連係攻撃を繰り出してくる盗賊達が迫る中、腰に伸びた翼を広げて空中に舞い上がった。


「な、なんだとっ!?」


「はぁあああああっ!!」


(私、飛んでるッ。空を飛んでる)


 自身に芽生えた新しい感覚に興奮と戸惑いを覚えつつ、暗闇の中で暗視スキルを再び発動して敵を見据える。


(かなり人数が少なくなってる……。あと少し、っととっ)


 空中で留まっていたイヴの身体が急激に下降し始める。


 こちらは闇の中に溶けて弓矢は使えないらしい。早めに対処する必要がある。


(長くは飛べないのかッ……。ならこのままっ)


 空中からの落下スピードを利用して槍を突き立てる。


「てぁあああああっ!!」


 野盗の身体を貫き、すぐに武器を収納する。


 引き抜くよりもブレスレットに戻した方が早いと考えたが正解を引いたことにイヴは安堵する。


 すぐにショートソードを作り出して近くにいるもう一人を刺突した。


「くそっ、こいつ強いぞっ」

「どんどん動きが良くなってやがるっ。ただ者じゃネェ」



 イヴの手には再び大ぶりの槍が握られ、近くにいた盗賊達は更に速度を増した槍術で次々に両断していく。


 やはり、敵を倒す度に加速度的に槍術スキルが上がっていくのが分かる。


「これで、あと5人ッ!」


「くっ、これはまさか『レベルアップ現象』ッ!? この女、上位魔族かっ!? こんなところにいるなんて聞いていないぞっ」


「あの武器はなんだ? 見た事がないぞっ」


「撤退だっ。これ以上の犠牲は出せん」


「退けっ、退けぇええっ」


 そこにきてようやく撤退命令が出始め、奥の方に感じた気配が遠ざかっていくのが分かる。


 暗視スキルで確認したところ、奴らの後ろにまだ後続部隊が控えているのが見えたのだ。


 正直体力は限界に近づきつつあったので深追いはできない。


(た、助かった……もう限界だった)


「そうだっ、ファガンは?」


 イヴはファガンの身を案じて獣車の方を振り返る。


 大丈夫だとは思うがあの人数を守りながらでは流石のファガンでも……と思ったのだが……。


「おう、終わったなイヴ。お疲れさん……」


「あ、あはは……そうよね。ファガンに心配をするだけ無用だったわね」


 そこにはイヴが倒した野盗の3倍にはなろうかという死体が緑の光に包まれて積み上がっており、腰の力が抜けたイヴはその場にへたり込んだ。

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