第19話 龍神の眷属
【sideイヴ】
「殺気を感じる。どうやら敵さんのお出ましのようだ」
「え!?」
「迎え撃つぞ。多分村人達はまだ気が付いていない」
「分かった。ねえファガン、相談なんだけど」
急いで服を着直し、荷車を降車しながらファガンに話しかける。
「どうした?」
「この力を試してみたいの。襲い掛かってくる敵は私に任せてくれない」
身体の奥から溢れ出そうな力を抑え込もうとしてもウズウズして仕方ない。
今までの人生でないくらい気分が高揚していた。
せっかく初体験で幸せいっぱいだった時間に水を差された報いを受けてもらわないとっ!
「分かった。サポートはするからやってみろ。村人の防衛は俺様に任せてくれ」
「うん。さっきから力が溢れて仕方ないの。今ならあの盗賊の頭領にも勝てる気がする」
「油断するなよ。たぶん力が溢れる分だけコントロールが難しいからな」
「分かった。油断しないようにする」
ファガンは憎らしいくらい落ち着いている。こういうところは頼りになるけど、ファガンだって初めてを終えたばかりなのに。
荷車から出たファガンは既に警戒しているシルビアに村人達の防衛を指示して周囲の気配を探った。
私はその間にそれぞれの
「盗賊さんのお出ましだ。みんな1箇所に固まって、男達は周囲を固めて女達を守ってくれ」
「ファガン様」
「心配するな」
その一言に安心したのか武器を構えていた男達の緊張も程良くほぐれていた。
身体に力が入りすぎていてはちょっとした事で恐慌状態になりかねない。
パニックを起こしてしまうとファガン一人では守り切れなくなってしまうからだ。
「ファガン、盗賊はどうしてる?」
「どうやらこちらを観察しているようだ。火を焚いているから向こうからは丸見えだからな。恐らくそろそろ仕掛けてくる筈だ」
暗くて見えないが、私は『暗視』『気配察知』を発動させ、360度方向に張り巡らされた包囲網を確認する。
「やばいわファガン。全方向に囲まれてる……。やっぱり私一人じゃ……」
ならいっそ……と、ファガンは村人達全員に1箇所に集まり、その場に座り込むように指示を出す。
「いいか、耳を塞いでろ」
戸惑いながらもその指示に従い、それを確認したファガンは一番大きな
そして胸を大きく張って息を吸い込み、周囲に響き渡る大声を張り上げた。
「ううぅうおおおおおらぁああああああっ!!!! 野盗共ぉぉぉおおッ!! そこにいるのは分かってんだっ!! 隠れてないで出てこいやぁあああっ!!」
ビリビリビリビリッッッ!!!!!
周囲に響き渡る凄まじい怒号に、何人かの人間がひっくり返ったのが気配で伝わって来た。
近くにいる私達もそれ以上にもの凄い声に驚いているが、何かに守れている感じがしてそこまでダメージはなかった。
ざわめきとどよめきが同時に起こり、獣の悲鳴らしき声も一斉に起こった。
一瞬にしてパニックに陥った野盗達であったが、その間に周囲にいる野盗達の位置に意識を向けた。
「イヴ、あっちにいる奴らは任せろッ。反対方向の奴ら相手に暴れ回ってこいッ! 加減は考えなくて良い。思い切りやれっ!!」
ファガンの声を聞き、私の中に凄まじい昂揚感と万能感が溢れてくる。
漲るパワーに任せ、内側から湧き上がってくる力を解放した。
「よぉおおおおおしっ!! 覚悟ぉおおおおっ!!」
角と羽根が大きく広がる。身体が浮遊したように軽くなり、その足は高速で掛けだした。
どうやって攻撃を? 難しい事は考えられない。
だったら拳で殴りつけるしかないが、今の私なら人間の身体くらい粉々にできそうなほど昂揚していた。
人間族は天神族の保護を受けている。だったら防御力はモンスターと同じかそれ以上の筈。
だからこそ力任せに殴りかかろうとした。
その意思に呼応するように、ブレイブリングウェポンが輝きを放つ。
その手に握られた大ぶりの槍がズッシリとのし掛かった。
「槍ッ!? でも良いかも。大暴れするには大ぶりの武器が丁度良いッ」
「つ、突っ込んできたぞっ!」
盗賊達の慌てふためく声が広がり、目印を見つけて槍を両手に持って大きく振りかぶる。
槍術スキルは習得していない。だったらできる事は一つ。
「力任せにぃいいいいいっ、ぶっ飛ばぁあああああすっ!!」
溢れ出したパワーをそのまま横薙ぎの一撃に込める。
激しい風を巻き起こしながら分厚い刃が盗賊達をなぎ払った。
肉体にめり込む刃は驚くほど簡単に男の固い肉体を骨ごと切り飛ばす。
まるで柔らかいパンを炙ったナイフで切り裂くように、盗賊は身体を真っ二つにされて絶命する。
(人間の身体がこんなに簡単にッ!? これならいけるッ!)
「うおおおあああああああっ!!」
そしてそこで終わらない。
あまりのパワーに槍から生まれた衝撃波が、後ろにいる盗賊二人をまとめて切り裂いたのだ。
敵の血しぶきに備えてまぶたを閉じかける。
しかしその目に飛び込んできた光景に、ファガンの加護があった事を思い出した。
血しぶきは飛ばず、切り口は浄化ノ光と思われる淡いグリーン色の光る粒が付着している。
ドスンッと地面に叩き付けられた死体はそのままグリーンの粒子に包まれていった。
(凄いッ!! 凄い凄い凄い凄い凄いっ!! これならっ、いけるっ!!)
脳が痺れるほどの昂揚感と万能感が力を何倍にも引き出し、その力の持てる限りの威力で敵を蹴散らしていった。
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