第18話 龍神がもたらしたもの



「け、契約の紋章? 何ですかなそれはっ!?」


「まあ、簡単に言うと上位魔族が主従の契りを交わす時に刻む紋様のことよ。この場合、ファガンが主人で、私が従者ってことになるわ。普通は逆なんだけどね」


「魔族の主従関係、か」

「……あ、ねえ、これ見て」


 ファガンは照れて熱くなる頬を押さえながらイヴの身体に刻まれている紋様をマジマジと観察する。


「こ、これは、俺様の身体の紋様と同じ」


「そう。ファガンの紋様の一部を刻まれてる。私がファガンの所有物になったってところかしら」


 何故か嬉しそうなイヴを見て、ファガンの疑問は増大した。


「い、いったいどうしてそんな事に。それにイヴって進化できない下位種族じゃなかったの?」



「私もそのつもりだったんだけど……一体どういうことなのかしら……ねえ、その紋様ってどんな意味が込められてるの?」


「こいつは生まれつきの模様だ。龍神族は力の強さと才能に応じて浮き出るものらしいけど、種族のなかでこんなに出たのは俺様だけだって話だ」


 そこでイヴは先ほどまで行っていた行為を思い出し、一つの推論を導き出した。


「もしかして、ファガンに抱かれるとパワーアップする?」


「ま、まさか……」


 ファガンの驚きの声に苦笑いを浮かべるしかなかった。

 このようなことは通常あり得ない。


 それができるとしたら、神なる種族だけになるからだ。


 そしてファガンにはその現象に身に覚えしかなかった。


 まさか自身にそれが起こるとは露ほどにも考えなかったのだが、イヴに起こった変化を説明するには、それしか考えられなかったのである。


「スピリットリンク……」


「え?」

 ファガンの呟いたその言葉は、妙に部屋の中にハッキリと響いた。



「スピリットリンク……? それって一体……」


 ファガンが呟いた小さな一言は、イヴの耳にどうしてかハッキリと伝わる。


 その言葉に含まれている意味が、何故か心地良く耳に響いた。


「俺様の父上が有してる能力の一つだ。愛し合う者同士が心と心を繋いで共有する。その恩恵として互いの強さを相乗的にパワーアップする能力だ。人数が多いほどその恩恵は大きくなる」


「ファガンのお父さんって何者なの?」


「まあ、一口で説明するのが難しい人ではある。とにかくとんでもない存在だよ。このアイテムストレージ付きのアーマーバンクルだって父上が開発したものだ。中に入ってる数え切れないアイテムも全部な」


「凄すぎて言葉が出ないわ」


「ともかく、多分イヴの変化は俺様との繋がりができたからなのは間違いないな」


「ねえファガン……。これって、私以外の、他の女の子にも力を分け与えること、できるかな?」


「うーん、確証はないけど……条件が揃えば、あるいは……」


「条件?」


「スピリットリンクは、運命で繋がった者同士じゃないと発動しないって教えてもらった。俺様とイヴみたいに、多分前世で縁のあった者同士じゃないと発動できない可能性が高い。父上くらい強い力を持っていれば、その場で繋がりを作る事ができるらしいが……」


「もしかして、そのスピリットリンクって力が、ファガンに遺伝したってこと?」


「うーんどうかな。……兄上の一人にスピリットリンクに目覚めた人がいるから、条件次第で俺様もコントロールできるようになる可能性はあると思う」


「そのお兄さんは、どうやってコントロールできるようになったの?」


「説明が難しいけど、一言で言うなら、死線を乗り越えたから、だと思う」


「さっきから曖昧な話ばかりね」


「しょ、しょーがねぇだろ、ガキの頃の話なんだから。話に聞いた程度だからさ。あの頃は兄上すげーくらいにしか思ってなかったし、それがあるのが当たり前の世界だったからさ」


「そっか。ごめん」


「いや、まさか俺様にもスピリットリンクが宿るなんて考えもしなかった。兄上は、兄弟の中で一番父上に近い才能豊かな人だから、特別な事だと思ってたんだ。それに、この力がスピリットリンクかどうかは、まだ分からねぇ」


「どういうこと?」


「スピリットリンクは心同士を繋げるって話だから、互いの考えが分かるらしい。でもどうだ、イヴは俺の考えてること、分かるか?」


「うーん、とりあえず早く服着てっ~、ってところかしら?」


「正解ですぞッ!!」


 ファガンはシリアスな話をしながら部屋の隅に隠れて後ろを向いている。


 因みにその時イヴはまだ裸体のままであった。


「皆と一緒にっていうのも、その照れ屋さんなところを直してからね」


「分かったッ! 分かったからはだけたまま近づいてこないでぇ!!」


 自分に起こった劇的な変化については分からないことだらけ。


 イヴは懸念を頭に残したまま、そんな状況でもブレないファガンに苦笑を浮かべるのだった。



 イヴは照れるファガンをからかいながら衣服を着直し、幸せを噛み締めていた。


「ね……もう一回、シヨっか」


「うっ……、そ、そんな可愛い笑顔を向けられたら」


 ムクムクと起き上がってくる性欲が再び二人の気持ちを高めて行く。



 しかし……。


「むっ」


 平穏な時間を破る不穏な気配を察知したファガンの顔付きが変わる。


「どうしたの?」


「殺気を感じる。どうやら敵さんのお出ましのようだ」


「え!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る