第17話 奇蹟の進化



「ねえファガン。一つ、お願いがあるんだけど」


「どうした?」


 ファガンとイヴは空間魔法で拡張された部屋の中で初めてを迎えた。


 互いに初めて同士。大人になった二人は裸で抱き合いながら身を寄せ合い、一枚のシーツで身体をくるんで互いの体温を確かめ合っていた。


 彼女の胎内にはファガンの証がタプタプと波打っており、不思議な事に事が済んでからも外に漏れてくることはなかったのである。


 どういうわけかその液体は胎内で徐々に減ってきており、そのたびに彼女の中に言い知れぬ多幸感が生まれている。


 そう、まるでファガンと心が繋がっているような。

 温かな波動がジンワリとイヴの心と体を温めていた。


「今日、私に与えてくれた幸せを、他の皆にも分けてあげて欲しいの」


「え?」


「ファガンのこと、気に入ってる女の子が沢山いること気が付いてる?」


「う、うん……そうだな……まあ、今なら分かる、ぜ。イヴはそれでいいのか?」


「正直、私一人ではあなたは手に余るから……なんちゃって。でも冗談抜きで、私は他の皆と一緒がいいかな」


「分かった」


「いいの?」


「一人の男が多くの女を愛することは、不自然なことじゃないぜ。こっちの世界ではどうだかしらないけど、俺様の世界じゃ一夫多妻は当たり前だ」


「そうなんだ。うん、こっちの世界も、強い人が多くの妻に子孫を残すのが摂理みたいな考え方はあるから、いいと思う。ファガンは強いから、あなたの子供産みたいって思ってる女性は多いはずよ」


「そうか、やっぱり血筋なんだろうな」


「血筋?」


「俺様の父上さ。父上にはもの凄く沢山の妻がいて、俺様はその中で、確か80番目くらいに生まれた子供だった筈だ」



「80番目ッ!!?」


 驚愕の事実が次々に明らかになり、イヴは驚きの声を上げる。


「ああ。父上はとにかくデタラメなんだ。何もかもが規格外。それが当たり前の環境で育った俺様でさえ、どれだけの非常識を見せつけたら気が済むのかって思うくらい、何もかもがぶっ飛んでる」


「ファガンはその血を引いているってことね。あなたのスゴさの秘密が少し分かった気がする」


「ははは。だから多くの女を受け入れるってのは、俺様は抵抗はない。だが、いい加減な気持ちで女を抱きたくはねぇ。父上も妻が沢山いるが、あの人は全員と真剣に向き合って愛し合ってる。俺様もそれを目指したい」


「凄いわね……。あなたに出会えて、本当に良かった。それじゃあ、早速明日から順番に交流を深めて貰える? 私が仲介役になるわ」


「ああ。そうしていこう。頼むぜイヴ」


「うん、それじゃ……ファガン、もう一回、キスして」


「なんだよ急に」


「ふふ、だって。ファガンを独占できるのは、一生のうちで今日だけかもしれないから……」


 身を起こしたイヴはファガンの腰の上に跨がって身体を覆い被せてくる。


 ゆっくりと閉じられたまぶた。近づいてくる唇に吸い寄せられるようにファガンも身を委ねた。


 その時、イヴの身体に異変が起こる。


「あ、あれ……これ、何ッ、身体が、熱い…」


「ど、どうしたイヴッ!?」


 突然のことに驚き、ファガンはすぐに回復薬を取り出した。


 だが彼女の身体は淡く目映い光に包まれ、粒状のグリーンに輝く光球がイヴの身体を取り囲んで踊るように弾けている。


 苦しげに見える表情でうずくまるイヴであったが、身体の光はどんどん大きくなった。


「ぁあああああああああああっ!!」


 とうとう叫び声を上げるイヴの様子に、ファガンはどうしていいか分からず固まってしまう。


 気の流れを読むに悪い事が起こっている様子ではない。

 むしろ……。


「身体が、熱いッ……、力が、あ、ふ、れるぅううっ、ぁああああああっ!!」


 光の粒子に包まれたイヴの身体が徐々に変質していく。


 背中と頭上、そして腰の辺りに大きな異変が起こる。


 メキメキと音を立てて、何かが生え始め、徐々にそれは大きくなる。


「ぁあああああっ、くぁあああああああっ!!」


 そして爆ぜるような光の霧散が起こり、イヴの姿はすっかり変わり果て、その変貌の全容が明らかになった。


「その姿は……」


「はぁ、はぁ、はぁ……こ、これって……進化? うそっ……私って、上位種だったの?」


「イ、イヴさんっ!」


「どうしたのファガン」


「前、前隠してっ!」


「え? きゃああああっ!!」


 起き上がっていたイヴは一糸まとわぬ姿であり、ファガンの前でその裸体を惜しげも無く晒している状態だった。




 先ほどまで肌を晒すより凄い事をしていた訳だが、事が終わると元に戻るファガンのことが少しだけおかしかった。


 恥じらって肌を隠しながらもそんな男に対して抱いている感情を再確認し、イヴの心は喜びで満たされた。


 だがそれより……。


「あれ、これって……」

「え?」


 入って来た少女の指摘でシーツで隠したお腹をそっと見やる。


 そこには胸と下腹部に奇妙なの紋様が浮き上がっていた。


 イヴは自身の下腹部に浮き出たその紋章をマジマジと観察し、一つの見解に辿り着く。



「これ、もしかして契約の紋章?」

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