第16話 少年、覚悟を決める

【sideファガン】


 そしてその夜。村の人達の交流を終え、俺は自分の部屋としてあてがわれた大きなほろのなかに戻ってきた。


 しかし、村の娘達の熱い歓迎には参ったぞ。 

 こちとら女に免疫がなさ過ぎて狼狽えっぱなしになってしまった。


 しかもこちらをからかうようにスカートやら胸元やらをチラチラしてくるものだからどうしても見てしまう。


 俺だって思春期の男子だ。女の裸にだって興味はある。


 あんなことやそんなことだってしてみたい。


 だけど、彼女達の善意に付け込んで身体の関係を迫るようなゲスにはなりたくない。


 昔、父上が同じようにモンスターに襲われていた村を助け出した時、その時に出会った意中の女性以外には一切手を出さなかったと聞いた。


 たぶん、村の人達が俺のお世話係に村の娘達をあてがうのは"そういったこと"も含まれてるんだろう。


「ファガン……」


 なんてことを考えてぼんやりしていると、いつの間にかイヴが部屋の中に入ってきていた。


 だが俺はその格好に驚いてしまう。


「イヴ、って、ど、どうしたんだその格好ッ!?」


 夜の幌の中で、睡眠をとろうと横たわっていると、イヴが真っ赤なベビードールを着用してやってきた。


 扇情的な下着を身につけて頬を朱に染めてゆっくりと近づいてくる。


 女の裸に免疫が無い俺ははそれだけで狼狽えてしまい、両手で顔を覆って逸らした。


 だがイヴはそれをからかうでもなく、照れるでもなくただ静かにそこへ佇んでいた。


「……イ、イヴ……?」


 流石に何か雰囲気が違う。


 俺はそう感じて恐る恐る視線を向ける。


「そ、その下着は……」


「たぶん、奴隷に着せる用だと思うんだけど、この部屋の荷物の中にあったの……」


「そ、そうか、いや、そうじゃなくてっ、なんでその格好」


「ファガン、童貞だって言ってたよね」


「お、おうっ」


「初めての相手、私じゃ不足かしら……」

「え……えっ!? えっ!?」


「私の処女、貰ってくれない?」


「ど、どうどう、どうしてそんなことをぅっ!?」


 上擦った声で後ずさりする俺に四つん這いで近づいていくイヴ。


 その頬は更に赤らみ、熱情に浮かされた"女"の顔になっている。


 たぶん、そうだ。これが"女"の顔なんだ。


「私さ、今日で思い知ったんだよ。生きてたら、ああいう理不尽にいつ遭ってもおかしくないって。今日はファガンが助けてくれた。でも次はそうじゃないかもしれない」


「そ、それは……」


 ない、とは言い切れなかった。


 この世界は殺伐としている。

 少なくとも俺が見た範囲でのこの世界には、一定の不条理、理不尽が存在しているのは確実だった。


 平和な世界で生まれ育った俺にとって、人間の尊厳を踏みにじる存在が居ることは物語か歴史にしか聞いたことのない現実感のない話だった。



「私だって女だもん。大事な処女は、好きな人に捧げたい……。今日会ったばかりのあなたに言うのは変な感じだけど、私、貴方の事かなり気になってるのよ……」


「イヴ……お前……」


 イヴはとうとう壁に追い詰められた俺の胸板に頭を寄せて腕を回す。


 控え目だが確実に存在する女の膨らみが当たり、心臓が爆発しそうなほど鼓動を早める。


「凄い早さで心臓が鼓動してる……。私でもドキドキしてくれるんだ」


「そ、それは、もちろんですぞっ!」


「ふふ……また喋り方変になってるわよ……まあ、正直に白状しちゃうと、打算も入ってるんだけどね」


「だ、打算?」


 早打ちで血管が千切れそうなほど激しい動悸に耐えながら、イヴの言葉に耳を傾けた。


「理由が欲しいのよ……あなたを繋ぎ止める理由が欲しいの。私達、あなたにまだ何も返せてない。明日になったら、フッと居なくなってしまうんじゃないかって、不安なのよ」


「それは、そんなことは」


 こんなことをされなくても、俺はもう彼女を守ると決めていた。


 それは彼女が大事にしているもの全部を含めてという意味でだ。


 だけど、彼女にはそれでは足りないらしい。


「分かってる。でも、繋がりが欲しいのよ。だから、身体で繋がって、引き留める理由が欲しかった」


「そ、うか……そうなんだな」


「私、あなたに嘘はつきたくないって、思ったから。ねえお願い……今夜限りの思い出でも良いから、私を女にして。もう野卑な盗賊の感触を早く忘れたいの」


 そのことで一つ俺の中に反省が生まれた。


 女性がその尊厳を奪われるということの重みを。


(そうだ……。女がその尊厳を奪われる事の重みを、軽んじてはいけないって師匠にも言われたじゃねぇか……)


 現実味のない出来事なので想像するしかなく、経験もないためその気持ちを明確におもんぱかることができなかったのだ。


 その事に気が付き。甘かった自分に渇を入れて恥じらい固まっていた身体を震い動かした。


 身を寄せるイヴの背中に手を回し、ゆっくりとだがその身体を抱き締める。


「ファ、ファガン……」


「女の覚悟に泥を塗るなって、師匠に言われた事を思い出した……覚悟を決めた女に恥を搔かせる訳には、いかないよな……」


「私、あなたのお眼鏡に適うかしら……。容姿にはそれなりに自信がある方だと思ってるけど、好みじゃなかったら、諦めるわ」


「そ、そんなことねぇ……。イヴは、綺麗だ……」


 抱き締める腕が徐々に力を込める。甘い香りに頭がクラクラし、俺のナカにある"オス"が確実に目覚めたのを自覚した。


「ファガン」

「イヴ……分かった。俺も覚悟を決める」


 

 生まれて初めて雄(オス)になる決意をし、イヴの唇に自らのそれを重ね合わせていった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


◇作者より◇

本日はここまでとなります。

ご意見ご感想、お待ちしております。

面白ければ是非とも♡、☆での応援をしていただけたらとても嬉しいです。


じつはこの作品、もともとR18用に作ったものをその要素なしで公開しているものです。


なのでところどころで大人向け要素が残っており、もしかしたらレギュレーション違反な部分があるかもしれません。


カクヨム民の皆様には、是非とも危なそうな箇所は教えて頂けるととても助かります。


どうぞよろしくお願いいたします。

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