第15話 イヴの決意
【sideイヴ】
ファガンはまだ村人達と食事をとりながら談笑している。
今日一日、悲劇に見舞われて疲弊しているであろう村人達は、ファガンの力強くも屈託のない笑顔にすっかり安心感を得ているようだった。
豪気で一見短慮だが、実際は思慮深く、人柄も良く、心優しい。
強く、逞しい男に若い娘達は当然のように絆され、それは伴侶を得ている者ですら同じだった(流石に若い娘のように姦しくはならなかったが)。
私は何気なく
「んっしょっと……こんなもんかな……あれ……これは」
一通り準備が終わった後、何気なく部屋の隅に視線を送ると奇妙なものが目に入る。
部屋の片隅にある木箱から奇妙な布地が飛び出していた。
恐らく昼間の戦闘で揺れた際に蓋が開いたのだろう。
何気なくその蓋を開けてみると、そこには女性用の服が幾つもしまってあった。
「これって……。やっぱりそういう奴よね」
それは下着だった。それも普段使いの機能性重視のものではなく、もっと別の目的に使うもの。
ベビードール、あるいはネグリジェとも言われる高級品のそれは、真っ赤な薄い生地にレースが編み込まれて扇情的そのものと言って良いデザインをしている。
娼婦、あるいは貴族の女性が男を誘惑するために作らせた、目的がハッキリしている下着だ。
「ファガン……」
頭に浮かんだ人物に思いを馳せ、身体が熱くなるのを感じた。
「やっぱり……、初めては好きな人がいい……。好きな人……私、ファガンが好き? 今日会ったばかりなのに? それっておかしいのかな。普通じゃないのかな? 普通じゃないなら、どうしてアイツの事を思い浮かべるだけでこんなに身体が熱くなるの?」
下腹部、正確には子宮がトクトクと疼くのを感じる私は、そこに手を当てて脈動を確かめる。
考えただけなのに。あの腕のたくましさ。胸板の厚さ。美しく透き通るような青い瞳。
力強く聳り立つ龍の角。
全身を包み込む、柔らかいのに荒々しい闘気の奔流。
すべてが私のメスの本能を疼かせた。
「これは、認めないとダメかな……。私、ファガンに女として支配されたがってる……変だよなぁ、これ……普通は付き合いたいとか、結婚したいとかじゃないの? なんで支配? おかしいって……」
これは普通の感覚では無い。それは自分でも分かっていた。
私は、ファガンに支配されたがっていた。
生物としての本能が、それを止める事ができなかったのだ。
圧倒的な上位種であるファガンに、その身を捧げたい。
ファガンの放つ強者としての気配にそのような気持ちになっているのか、あるいは別の何かなのか……。
それは分からない。しかし……。
私は決意した……。
『イヴ~~、ちょっと来てっ!』
外から村の仲間が呼ぶ声がする。下着を握り絞めていたことにハッとして、急いでそれを懐にしまい込んだ。
「見てみてッ、凄いのよファガン様ッ!」
「あ、あのぅうっ、こ、ここで衣服を脱がないで頂けますかぁっ!」
見ると村の娘達が水をくみ取る用の大きめな桶に水を出しているところだった。
だがよく見るとその水からはホワホワと湯気が立っており、周りの女性達は衣服をはだけて布で身体を拭いている。
しかし、当のファガンは衣服をはだけて身体を拭いている若い娘に顔を赤くして目を逸らしていた。
薄目を開けてチラチラ覗いている事を、私は知っている。
「もしかして、お湯も出せるの?」
「お、おうっ、闘気で熱を調整ながら魔法を使うとお湯も作れるのですぞっ!」
「凄いのよ。このお水、肌が艶々になるの。畑仕事でボロボロだった手が、ほら見てッ!」
実家の二つ隣に住んでいた同世代の女が指を差し出す。
彼女の手は毎日の畑仕事で荒れに荒れていた筈だが、そこには逆むけは肌荒れなど一切ない、白魚のような美しい女の手になっていた。
「これ、どういうこと?」
「水の中に闘気を込めて、悪い気の流れを浄化する作用を持たせたのですぞっ!」
「それは凄い事だけど、さっきからあなたはなんでそんな変な喋り方なの?」
「だ、だってぇっ、わ、わ、若い娘さんが肌を曝け出すなんてハシタナイことをっ! め、目の前でされたらぁあ」
両手で魔法を使用しているため目を覆うことができないでいると、若い娘達はワザとチラチラとスカートをたくし上げ、それをチラ見して大いに照れるファガンを見て楽しんでいた。
下着をチラ見せしては『ファガン様可愛い~♪』などとからかわれている。
「ファガン様って凄く凜々しいのに女性の裸に免疫ないみたい。なんだか可愛いよね♡」
それは年頃の娘達が幼い男の子をからかうような光景である。
(なによ……こっちは裸になる覚悟決めてきたっていうのに、ファガンの馬鹿ッ)
「どうしたのイヴ?」
「なんでもなーいっ!」
思わずすねるような声を出してしまう。なんだか覚悟してちょっと損した気分にさせられて、私は頬を膨らませた。
「イ、イヴ」
「何よファガン」
村娘達のはだけた姿にしどろもどろになっているファガンにはそこに気が付いてくれない。
そのことが余計に腹立たしかった。別にファガンの恋人でもなんでもないのに……どうしてだか自分の感情を抑えることができない。
「お、お前も身体拭くと良いですぞッ!」
「私の裸も見たいわけ? さっき沢山見たじゃない」
「そ、それとこれとは別問題じゃないかっ」
「えっ、えっ、なに? ファガン様とイヴってもうそういう関係なのっ!?」
「そんなわけないでしょ!」
「なに怒ってるの?」
「怒ってないッ!」
そこまで言って何かを察し、まあまあと宥めながら私にも水で身を清めるように勧めたのは幼なじみの【シャロン】だ。
「ヒソヒソ(今夜、抱かれに行くんでしょ?)」
そのシャロンがニヤニヤしながら耳元で囁いた。
「っ!?」
図星を突かれて顔が真っ赤になる。
慌てて否定しようとするも、彼女は全てを悟ったような表情で一切の言い訳が通じなさそうな空気は確実だった。
事実としてその通りなので私自身にも強く否定できない。
「そ、そんなことは」
「ないの? じゃあ私が行こうかな。ファガン様になら処女捧げても良いなぁ」
「そ、それはダメ、一番最初は私だからッ……あっ」
「ニヤニヤ」
「ち、違うのよっ! それはそういう意味じゃなくてっ! マ、マッサージッ! 一日の疲れをマッサージで癒やしてあげようかとっ!」
「イヴ~、私に隠し事は通じないって分かってるでしょ?」
「うう……は、はい」
幼馴染みの彼女には昔から内情を見透かされる事が多い。
そんな事情もあって頭が上がらないのである。
「ねえイヴ」
「なに?」
「一番最初は譲るからさ。私もファガン様、お裾分けして欲しいな」
「そ、それは、ファガン自身が決めることでしょ」
「私、ファガン様に一目惚れしちゃった。あの方になら処女を捧げたいって思ってるよ」
そこまで言われて、ハッとなる。
彼女の手は震えていた。そうだ、彼女も盗賊に家を焼かれてここに連れて来られた一人。
その恐怖の大きさは、それを味わった自分自身が一番分かっていた筈だった。
しかも彼女は、冒険者の自分と違って何も持たない普通の村娘。
条件の違っている自分と比べて、その恐怖たるや同じと考えてはいけない、と思い直す。
「ひげ面の男達の感触が消えないんだよね……。なんとか唇と、処女は守ったけど、あれは
自らの豊満な胸を両手で搔き抱いて屈辱を思いだしたように震えるシャロン。
涙目になっている彼女の手を取り、すぐに抱き締める。
ここにいる村娘達全員が同じ想いであることを、私はここにきてようやく悟った。
「分かった。私がファガンを説得する。これから皆を守って貰えるように、私達の傷を、癒やして貰えないか」
「うん、お願いね」
そのうったえに再び決意する。念入りに身体の汚れを清め、懐に隠した扇情的な下着を握り絞めてファガンの元に向かった。
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※お願い※
ここら辺、もともとR18で書いているものを改造した場所なので、アウトは表現あったらお知らせくださると助かります。
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