第14話 因果応報 後編
「あなたの国は、随分と精神性が高いのね。殺した生き物に感謝して食べる、か……言われて見れば確かに変な話よね。殺される側に立ってみればたまったもんじゃないだろうし」
「生きていく為に狩りをするって事を否定してる訳じゃないけどな。それでも殺すという行為自体が魂に良くない影響を与えるんだとよ」
ファガンは浄化ノ光でボアを供養していく。
魂に自らの気を送り、獲物の魂を浄化する。
『クーン』
「大丈夫だシルビア。お前の行動を責めてるわけじゃねぇよ。それに、こっちの世界の住人にそれを押し付けるつもりもねぇ。俺様の世界じゃ生きる為にわざわざ殺す必要がないから禁止されているんだ。家畜を育てて売り物にするのを防ぐためにな。さっき言った心の問題もあってそういう行為自体を禁止したんだ」
「ファガンの国は、生き物を殺さなくていい環境で生きていけるのね」
「ああ。慈悲深い王に収められてる良い国だと思うぜ。国王陛下は国民全員に心の豊かさを育てる生き方をして欲しいって願いで国を運営してるからな。事実として、その方針になってから事故やトラブルで怪我をする人はかなり減ったらしい」
「え、どうして?」
「生き物に与えた苦しみが、何らかの条件で自分に返ってくるって仕組みがあるんだそうだ。『インガオウホウ』っていうんだとよ」
「そう、あなたの世界にも『因果応報』って言葉があるのね……」
「え、この世界にもその言葉があるのか? そういえば、"業"って言葉もすんなり受け入れてたな」
「ええ。天神族が広めた言葉にそういうのがあるそうよ」
「そうなのか……」
(天神族か……ちょっと気になるな……そいつらってもしかして……)
肉の解体をしながら思案する。もしかして、と思いながらその正体に対して心当たりがあったのだ。
(別の世界からやってきたんじゃ?)
そんな風に考えていると、イヴが声を掛けてくる。
「でもファガン自身は肉の解体に随分手慣れてるみたいだけど」
「俺様は特殊な事情で魔素に取り憑かれた魔物を定期的に浄化する機会が多いんだ。あっちの世界の魔物は動物なんかの生き物に魔素が取り憑いて変貌するタイプと、魔結晶に負の感情が蓄積して魔物化するタイプが多かった。だから浄化ノ光で倒したモンスターの死体は荼毘に付すか糧にするかのどっちかだ」
「今は違うの?」
「少なくとも人間の生息地域に魔物が襲ってくる事はなくなった。ここ数年はまったくやる必要がなかったくらい機会が減った。一部の地域を除いて魔素自体が世界からほとんど無くなっていったからだ。だから殺さなきゃいけない場面にそもそもならない。魔物自体も減ってるしな。そこら辺説明しようとするともっと複雑な世界事情を説明しないといけなくて、俺様は上手く解説できねぇ」
「そうなんだ」
「さて、これで処理は終わりだ。野草と合わせて煮込みでも作るか。いや、肉は香草焼きにするか。俺様が統一王国特製の野営料理を披露するぜッ」
気を取り直したファガンは解体した肉を保存用と即時食用に分けて野草を摘めた木の皮に包んでいく。
あまりの手際の良さに村人達も手伝う余地がなかったほどだった。
「俺様特製ッ、スパイス香るボア肉の香草焼きと野草のスープだっ! 浄化をしたから肉質は良くなってる筈だぜ」
『おおおおおっ……』
それからファガンを中心に村の女達で鍋で煮込んだ野草イノシシ料理を作り、火を囲んで食事を行った。
骨でスープを作り、香草で味と香りを整えていく。
ファガンはバンクルの中から香辛料を出し、惜しげも無く村人達に料理として振る舞った。
香辛料は高級品だ。旅の食事にポンポン出して良い値段ではない。
しかしファガンはまったく惜しむこと無くそれを村人達に振る舞った。
悲劇に見舞われて精神の疲弊した村人達は、生きている実感を味わいながら、食べたことのない美味なる料理に舌鼓を打つ。
「美味しい……。こんな香り高いスパイスを使った料理、町でも食べたことないわ」
「統一王国特製の万能調味料だ。一振りするだけで血生臭い肉もあっという間に熟成肉と同じ深みが出る優れモンだぜ」
「いったいどれだけのアイテムが詰め込んであるのよその腕輪」
「さあな。出発直前に妹からプレゼントされたものだから、まだ全部中身を把握してないんだ。1回整理するのも良いかもしれねぇ」
「ホントにデタラメね」
談笑しながら食事は進み、大きな鍋で作ったスープやイノシシ肉の香草焼きは次々に無くなっていく。
特に栄養価の高い肝を使った料理は新鮮なうちに子ども達に振る舞われ、早い内にファガンに懐いていた。
盗賊達は荷台に様々な物資を積み込んでおり、普段からこれで数日掛けての移動を行っている事がうかがい知る事ができた。
それらを有効活用しない手はないとして、様々な物資の中にテントも発見した村人達は、今日から一週間交替で使う事を決めていく。
その中でもファガンはやはり特別室を独占して欲しいと請われ、彼もそれを受け入れた。
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