第4話 つむじ風の正体は
直後、さっき通ってきたばかりの道から突風がふいてきた
その風は、やがて三つのつむじ風となって木の葉や土ぼこりをまきあげながらゆっくりと向かってくる。辺りにたちこめる草木や土の匂いがいっそう強くなっていく。
「みんな集まってどうしたのー」
「なにかおもしろいことでもあったのー」
「おれたちにも教えてよー」
突然、つむじ風から声が聞こえてきた。
けれど不思議なことなんてなにもない。
なぜなら、そのつむじ風の正体は、本物の妖怪なのだから。
「あらあら。いたずら好きの三兄弟が帰ってきたわよ」
「風を起こすのをやめてくれ。こんなに強いと飛ばされちまうよ」
楽しそうに笑うろくろ首と、なんとか飛ばされないようにふんばる一反木綿。
しかし、がんばりもむなしく遠くへ飛ばされてしまった。
「うわっ!」
「目が……目がぁ……」
砂かけばばあの砂も風に飛ばされたせいで、みんなの目に入ってなみだが出る。
「おれたち、まだまだ風をふかせるのが苦手なんだー」
「早く父ちゃん母ちゃんみたいになりたくて練習中なんだー」
「ところで、そこにいる人間の子どもはだれなんだー」
少しずつ風が弱まっていき、空を飛んでいた三匹の動物がゆっくり地面におり立った。茶色い毛並みのいたちに似ているが、四本の足の先にはそれぞれ刃物が付いている。
「え? もしかして……」
鬼丸も気づいたようだ。
「そう。木を切ったのは……」
ヒロは、うなずきながら言葉を継ぐ。
「かまいたちさんだよ」
かまいたちは、つむじ風を巻き起こして人を切りつける妖怪だ。
けれど、この兄弟たちは風の調節が苦手で練習中のため、まちがって人以外のものを切ってしまったのだ。
三匹の起こした強風が木に大きな切れ目を付けてしまい、運悪く鬼丸が通りかかった時にちょうどたおれたのだろう。
ヒロが道ばたで拾ったお守りも、かまいたちの兄弟がまちがって鬼丸のランドセルを切ったせいで落ちたのだと考えられる。
「鬼の子。おれがまちがってた。お前が木を切ったなんて決めつけて悪かった」
真実を知った一つ目小僧は、大きな目玉に特大のなみだをためてあやまる。
「ごめんなー。おれたちのせいでめいわくをかけたみたいで悪かったよー」
「ごめんねー。これから練習する時はもっと広い場所でやるよー」
「ごめんよー。切り傷によくきく薬をあげるから許してくれよー」
事情を知ったかまいたちの三兄弟も小さな頭をぺこぺこ下げる。
「ごめんなさいね。あなたの話をちゃんと聞いてあげなくて」
「すまんかった。謝るのはあんたじゃなくてわしの方じゃった」
「人間に笑われるなんて言って悪かったな」
「鬼の子よ。話を聞かずに疑ってすまなかった」
ろくろ首や砂かけばばあ、一旦木綿や天狗もしっかりと頭を下げて謝る。
「謝ってくれたからいいよ。だけど、植物を傷つけるのはもうやめてよね」
鬼丸は、たおれた木に視線を向けながらうなずいた。
その目には、なみだがうっすらとうかんでいる。
「これにて妖怪裁判を終わります!」
ヒロが大声で告げると、それに負けないくらい妖怪たちがよろこびの声をあげる。
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