10ページ目 "黒鳥" (4)
森から飛び立ち。街に降り立った黒鳥は月の光とフォルダンテの活気で浄化され元の野鳥に戻る。
しかし黒鳥であった記憶は消えない。
「仲間を用意!?」
珈琲の匂いが部屋を包む。
「そうよ。このクエスト限定の仲間にするか。一生の仲間にするかはあなた次第だけどね」
そう言ってミラーセはニヒヒと笑った。
俺はこの世界に来てから人に恵まれてる。
俺はミラーセの笑い顔を見る。
こうやって今彼女が助けてくれるのも西条先輩のおかげなんですよね。
「何から何までありがとうございます」
この世界に来てから何度目かのお礼を言った。
「いいのよ。それで今日は遅いから明日紹介するわ」
そう言ってミラーセは立ち上がる。
そして仕事机の引き出しを開けてスマホを取り出す。
「これあなたにあげるわ」
俺はスマホを受け取る。
「ありがとうございます」
俺はスマホを開く。
あれ?何だこれ?
「これ外見はスマホに似せたんだけど機能は通話しか出来ないのよね」
スマホ画面はミラーセ・ステラとあるだけだった。
「そうなんですか…」
俺は少しガッカリした。
「後これは
「これも機工士が?」
「そうよ。
俺の能力の"
「いやこれ大事に使います」
「フフッありがと。それで明日場所と時間を電話するわ」
「分かりました」
俺は立ち上がる。
「じゃあ俺はそろそろ」
「待って。今日は近くにあるホテル"エビス"を予約しといたからそこに泊まりなさい。グリムで予約しといたから」
「本当に何から何まですいません」
「いいのよ。じゃあ明日電話するわ」
ミラーセも立ち上がる。猫は羽を器用に動かして彼女の肩に飛び乗る。
部屋を出ようとした時に不意に反対側を見たそこには2枚の紙が貼ってあった。
まるで写真のように鮮明な顔と後ろ姿が写っていた。
「あの…これは?」
俺は髪を指さす。
「ああ。これは手配書よ」
俺は今度はもっと近くで見てみる。
顔写真が写っている方は
顔剥ぎ・アポロンと書かれていた。
年は二十歳ぐらいだろうか若い印象を受ける。
興味なさそうに目は下に向いていて髪は白に少し薄いピンクが混じっていた。
情報提供 20,000,000
捕まえた者もしくは首を持ってきた者
100,000,000
情報提供二千万?それで殺した者には1億!?
「このアポロンって人そんなに悪い人なんですか?」
ミラーセも俺の隣に来て手配書を見る。
「アポロン・マルシュアスは人の顔の皮を剥いでその皮で覆面を作る事で有名ね。マニアの中では高値で取引されるらしいわ」
「そんなの買う人がいるなんて信じらないな」
「このアポロンも超がつくほどの悪人だけどもう1人の方はもっと悪人よ」
俺はもう一枚の手配書を見る。
死神・
後ろ姿しか見えないが顔だけを横にして目だけがこちらを見ていた。他は影になっていて分からない。
情報提供 500,000,000
捕まえた者または首を持ってきた者
10,000,000,000
え?えー!!目撃者 5億?殺したら100億!?
「こ、この人は一体……」
「
「そんなにヤバい人なんですか?」
「ええ。違反ギルド……ブラックギルドの中で1番ね…」
違反ギルド 通称 ブラックギルド
「……まあでも最近は全く騒ぎを起こしていないの。闇掲示板にも情報は掲載されてないし…」
「闇掲示板?」
「ブラックギルド…ああ違反したギルドの情報を匿名で載せる事ができる掲示板よ」
「インターネットがあるんですか?」
ミラーセは手を左右に振る。
その振動を嫌がって猫は飛んで地面に降りた。
「えーとなんて言うか。魔法紙って言うのがあってそこに宛名とかまあ掲示板の名前とかを書いて送ると魔法紙がその書かれた所に瞬間移動するのよ」
「へぇー瞬間移動……」
俺はクリットが家に帰ろうとした時に瞬間移動したミラーセを思い出す。
ミラーセさんのユニークスキルは瞬間移動なのかな?
そんな事をグリムは思った。
「じゃあ今度こそ行きます。ありがとうございました」
俺はミラーセに頭を下げた。
「うん。頑張ってね」
そう言ってミラーセは軽く手を振ってくれた。
俺はまだ少し頭を下げて副会長室の扉を後にした。
クリットは俺を見た瞬間にひどく狼狽した。
「お、おまえ!何されたんだ?目が腫れてるしどうしたんだ?」
「俺、目腫れてる?ロボットなのに?」
「言っただろ?その身体は人間とほぼ同じなんだよ……でも怪我や打撲とかで腫れることはないはず…」
クリットはそこまで言った時、一つの可能性に気付いた。
「まさか…泣いてたとか…か?」
クリットはほぼないと思っていた可能性を潰そうとした。
しかしグリムが少しだけ頷くのを見てその可能性があっていた事を知る。
「な…どうしてだ?拷問とかされるはずもないし仮にされても痛覚はないだろ?」
「……クリットその話をする前に聞きたい事がある」
グリムはクリットを少し睨む。
「…分かってる。俺のことだろ?」
「ああ。俺はクリットを信用していいのか?」
「とりあえず俺の話を聞いて信用するかどうか決めてくれ」
俺は自分の手を見る。
こうして今、動いているのはクリットのおかげだ。
だけどそれは俺を……いやだったら俺に能力を見せる必要はなかったはず。
今は出来るだけ信用できる仲間が欲しい。
心許せる仲間が1人でも多く欲しい。
「わかった。聞かせてくれ」
「ホテルに酒場があるはずだ。そこで聞いてくれないか?」
「わかった」
俺はクリットと一緒にホテル"エビス"に向かう。
その途中には甲冑つけた男達が飲み比べをしていたり2人の男女が石を加工して作ったブロックに座っていたりしていた。
あまり変わらない。俺がいた世界と何も。外見は違っても中身はみんな同じだ。
くだらない話をして酒を飲んで好きな人と一緒にいて…
何も変わらない。
「なあクリット」
エビスまでの道を思い出しながら歩いていたクリットはまさか今グリムに話しかけられるとは思っていなかった。
「……どうした?」
「…俺の話も聞いてくれないか?」
そう言ったグリムの頬に一筋の涙が流れた。
「もちろんだ。朝まで付き合うよ」
そう言ってクリットはグリムの肩を叩いた。
フォルダンテの夜はまだ始まったばかりだ。
野鳥は月が美しいと感じた。
どこまでもどこまでも飛んで行ったら月に辿り着けるかもとそう思った。
そして野鳥は空を飛んでフォルダンテを後にする。
フォルダンテを出た時、野鳥はまた闇に染まり黒鳥になる。
月の輝きだけでは野鳥には戻れない。
黒鳥は野鳥に戻る事を信じて太陽を待つ。
太陽の光で闇が消え去るのを黒鳥は信じ北へ北へ飛び続けた。
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