09ページ目 "黒鳥" (3)
月光は確かに太陽のように世界中を照らす事は出来ない。
でもその光は弱くても闇に負けてても。
優しく君達を照らす。
その心に光を灯す。
彼らを……グリムとミラーセの心を優しく照らし出してくれる。
無くなることはない。優しい光だ。
2人を乗せた馬車は目的地に向かう。
「……
グリムは前に進む為に違うことを考えようとした。
自分が今いる所……今から向かう所そして進む先それを明確に懸命に探して自分の人生を決めようと努力をしようとしていた。
「EL協会は、
ギルドの結成や解散など全てのギルドの管理、調査、依頼などをする。
また協会と契約して国の警備や
"
EL協会専属の冒険者。
またはEL協会に就職した者。
「…それで"
「EL協会の調査団のことよ」
依頼したクエストの達成状況やギルドの管理、またクエスト自体を調査し難易度を決めどのギルドに割り当てるかを主な仕事にしている。
"
「……あなたもその"
「私の事をまだ何も言ってなかったわね」
ミラーセはグリムの憔悴した顔を見る。
もう涙を流さないと決めた。
「私は
「…自警団まであるんですか?」
「ええ。これは
違反ギルドの取り締まりや契約した国の警備や犯罪者の制圧などを主な仕事にしている。
また
「こんな凄い人が友達だなんて西条先輩はすげえな…」
ミラーセは拳を握る。
窓から光がさす。
「着いたみたいね」
「もうですか?」
「ええ。中央都市 フォルダンテここが
俺も窓からその中央都市を覗く。
さっきまでの闇が嘘のように賑わい光り輝いていた。
「続きは私の部屋で話しましょう」
フォルダンテの街並みを少し進むと他の建物よりも一際大きいまるで宮殿のような場所の前で馬車が止まる。
「ここが
「はい」
俺は今度は自分で扉を開けて外に出る。
外に出た瞬間、賑わう人達の声が耳を通る。
馬鹿笑いをする者…酔っ払い…手を握って歩くカップル。
みんな幸せそうにフォルダンテの夜を楽しんでいた。
「さあ中に入りましょう」
俺はミラーセに続いて
馬車の扉を開いていなかった。
俺は遅れてミラーセの後を追った。
ミラーセの部屋はとても質素だった。
本棚がありそして真ん中に応接用のソファが2つ向かい合わせた置かれていてその真ん中には大きい丸机が一つ。
その後ろにミラーセが座っているであろう椅子と机が置いてあった。その後ろには大きな窓がある。
「ニャー」
ミラーセの部屋の扉の下にもう一つ小さな扉がありそこから羽の生えた猫が入ってきた。
「ええ…ええ…そのようにして」
ミラーセは電話を切ると応接用のソファに座った。
猫はそれを待っていたかのようにミラーセの膝に飛び乗る。
俺もミラーセと反対側の椅子に座った。
グリムとミラーセはまた向かい合う形になった。
違うのは呑気に欠伸をしている猫がいる事だった。
「あなたがいた世界ではいなかったでしょ?羽が生えた猫なんて」
ミラーセは猫の顎を優しく触る。
ゴロゴロと音がして尻尾を振る。
「ええ。この猫も魔獣なんですか?」
「そうよ。魔獣を知ってるの?」
「はい。クリットが教えてくれました。エーテルの事やマナの事もそれと魔人獣のことも」
ミラーセは猫の背中を撫でた。
「じゃあ何か知りたい事はない?」
俺は少し考えた。
「この世界って本当に異世界なんですか?」
「どうゆうこと?」
ミラーセは眉をひそめる。
「…いやなんて言うか。国籍やら出生届やらまるで俺がいた世界と同じだったから」
「うーん。この世界は異世界で間違いないわ」
猫は羽をパタパタと小さく動かすと自分の羽を舐め出した。
「この世界は行政がちゃんとしている国は多いわ。でもあなたがいた世界より国と国との格差や貧困の差も大きい。それに魔王軍の事は聞いた?」
俺は頷く。
「聞きました。たしか魔人獣達が戦争を仕掛けてるって」
「そう。その魔王軍との侵略戦争は所々で千年以上は続いているわ」
「千年も?」
「そう。この世界は大きな国は幸せで小さい国は魔王軍に怯えている。そんな世界なのよ」
少しまた沈黙が続く。
「まあ後、決定的に違うのはユニークスキルよね!」
ミラーセはわざと大きな声を出した。
「ああまあ確かに。そうですね」
俺も少し笑った。
「それに外観だって違う。なんて言うか西洋風って言うのかしら?」
俺は窓から見える景色を眺めた。
「うん。西洋風だ」
俺の独り言にミラーセは反応する。
「まあこの世界に関してはこんな感じでどう?」
「ええ。十分です。ありがとうございます」
窓からの景色は光り輝いて眩しい。
俺は少し目を細める。
「……そうだ。"
俺は景色を見るのをやめた。
「いや何ですか?
ミラーセは立ち上がった。
「
ミラーセは別室の扉を開けた。
すぐに戻ってきてカップを俺の前に置いた。
中身は茶色の液体だった。
「……ありがとうございます。これは?」
その答えは湯気からと一緒に立ち込める匂いが教えてくれた。
「コーヒーよ」
ミラーセは同じ所に腰を下ろした。
猫は丸机に移動し丸くなっている。
『はい。缶コーヒー』
西条シズカの声が坂木尊人の脳内に再生される。
俺はカップを手に取りひと口飲み込む。
苦味が口いっぱいに広がり身体が温かくなるのを感じる。
俺の好きな味だ……
グリムは涙を止める為に太ももをつねる。
しかし魔動義装は痛みを感じる事は許さなかった。
カップを机に置き。
大きく息を吸う。
涙は彼の要望に応えて出る事をなかった。
「それであなたには1つクエストをやって欲しいと思ってるの」
「クエスト?」
ミラーセも珈琲をひと口すする。
「2日後にあなた達がいたあの森の中そこにある洞窟にいる魔獣を倒す事。それと森の中にいる一角熊の討伐。どうする?」
ミラーセは俺に尋ねた。
「やります!」
俺は即答した。
ミラーセは強く頷く。
「洞窟は調査によってダンジョンである事が分かったわ」
「ダンジョン?」
「ダンジョンは自然魔力…マナが集まって出来上がった所の事を言うのよ。ダンジョンが出来上がるとその周りの魔獣達は凶暴になるの」
「あの一角熊もそうだったのか」
「それでダンジョンには
俺は頷く。
「
「つまり奪い合いになるって事ですか?」
「そうはならない。
俺は真剣な顔になる。
つまり最初に洞窟に辿り着き。
ミラーセは笑顔を見せた。
「でも安心して?今回のクエストはEランク…つまり1人だったら危ないけど大勢でやれば簡単なクエストだから。それにあの大きさの一角熊を倒せるなら問題ないわ」
「でも俺、仲間なんて…クリットは行くか分からないですし…」
ミラーセはニヤリと笑う。
「それは安心して。仲間なら私が用意する!」
フォルダンテの夜はまだ覚めない。
しかし覚めない夜はない。
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