07ページ目 "黒鳥" (1)
森から一斉に羽ばたく野鳥の群れ。それは空の闇に染まり黒鳥に姿を変える。
「ここは準
紫髪の女性は諭すように教える。
「「え!?そうなの!?」」
クリットとグリムは声を合わせる。
「いや何でクリットも知らないんだよ」
「そんなの何処にも書いてなかったぞ」
紫髪の女性は砂の上に横たわる一角熊を見た。
「あれは誰が?」
彼女は指をさしながら聞いた。
「あれは俺が……」
俺は少し手を上げながら答える。
「あなたはここが違法居住区に指定されている事を知っていましたか?」
俺は首を横に振る。
「いやいや全く知りませんでした。だって俺は……」
『ダメですよ!』
ラムダの叱責が飛ぶ。
『この人達がどんな人間か分かりません。それに見るからに怖そうな人達です。転生者だと知れたら何をされるか分かりません。情報は控えるべきです!!』
『ああ危なかった。ありがとうラムダ』
『大丈夫です。慎重に行きましょう!』
しかし彼女はその言葉尻を逃さなかった。
「だって俺は……何ですか?」
「え?いやえーと」
やばい。なんて言えばいいんだ。
「俺が知らずに彼を客人として向かい入れてしまったんだよ」
クリットが助け舟を出す。
「そ、そうなんです。だって俺は客人だからって言おうとしたんです」
すると彼女はまた笑顔を作った。
彼女の後ろにいる人達は何も言わずに佇んでいる。
空が作り出した闇で顔は分からない。
「そうだったんですね。すいませんでした。お怪我はありませんでしたか?」
「ああはい。ないです」
危なかった。またクリットに助けられたな。
でもこれで一応、危機は乗り切れたかな?
彼女は空を少し見上げた。
「……もう暗くなってきましたね。ここは危ないですから送っていきますよ。何処に住まれているんですか?」
「……え?」
俺はクリットの方を見る。
「あ、ああ彼は」
すると彼女は言葉を遮る。
「あなたが答えてください」
「………」
ま、まずい!!これはどうすればいいんだ?
『やばいよ!まずいよ!私達も地図なんてないし分かんない!』
『あるか分かりませんが旅人って事にするのはどうでしょうか?その日暮らしって事にすれば住んでる場所は誤魔化せます』
『確かに!』
俺はラムダの考えを採用した。
「えーと俺は旅人だから住んでる所とかないんですよ」
「では国籍は何処になるのですか?」
こ、国籍だと!舐めてたこの異世界にそんな物があるなんて……もっと軽い感じかと
「あなたが生まれた瞬間に出生届が提出されその瞬間に国籍の記入も義務付けられていますよ?奴隷だろうが戦争孤児でも自分の生まれた国を言えないなんて事あります?」
「あ……え?」
出生届……ってえ?そんなそれって前世とほぼ変わらないんじゃないか?
「彼は赤ん坊の頃に戦争孤児になりそのまま奴隷にさせられていたのだよ。だから自分の国を知らないんだ。もういいだろう。俺も彼もここを出るしこの家も撤去する」
クリットは少し無理矢理だが一応、筋が通る事を言ってくれた。
そうしてクリットは家に戻ろうとした。
その瞬間、彼女が消えた。
「な、お前」
家に戻ろうとしたクリットの目の前に突然、彼女が現れた。
そう彼女は瞬間移動をしたのだ!
「それではダメなんですよ。ここであなた達が何をやっていたのか。それを確かにしなければならない。それに彼に質問しているのに答えるのはいつもあなただ。彼は素性を隠してる」
八方塞がりとはこの事だな……とグリムは思った。
何も知識がない今の俺は誤魔化す事すらままならないよな。
それと彼女達はまるで警察のようじゃないか?
これは職務質問だ。この異世界では彼女達が警察のような役目をしているんじゃないか?
『ちゃら〜んジ・エンド』
『これ以上はもう無理ですね。しかしここまで執拗に素性やそんな準
『俺もそう思う。多分だけど彼女達はこの世界の警察みたいなものなんじゃないかな?』
とにかくこの人達について行くのは案外、悪い選択肢では無いかも知れない。転生者だと素性を明かすのは仕方ないが……
「……クリット」
「ああもう無理だな。降参」
クリットは両手を頭の上にあげた。
「では
「はいはい。はぁーまさかここでか」
クリットは残念そうに肩を落とした。
するとまた紫髪の彼女は元の場所に瞬間移動して戻ってきた。
「オーゼンは引き続き調査をお願い。サルガンはクリットさんを…私は戦争孤児の奴隷さんを」
「はい」
「はい」
後ろにいた人達が一斉に森に入って行く。
残ったのは彼女とスキンヘッドの男だけだ。
「では行きましょうか。よかったですね。これで生まれ故郷が分かりますよ」
俺達はオーゼンと呼ばれていた人達が言った方向よりも左に森を入った。
しばらく森の中を歩いていると突然、目の前が広がった。
そこはクリットの家があった平原がどこまでも広がっていた。
そしてその平原の真ん中には草がなく土が見えている道があった。そこには四台の馬車が並んでいた。
真っ黒の塗装に金が加工さら所々にまるで蔓のように付いている馬車だった。
ご丁寧に窓から見えるカーテンまで黒色だ。
そして驚くべきはその馬だった。
全身が鉄で出来ているサイボーグのような2頭の馬が首を下にしてピクリとも動かない。
「どうぞ」
彼女は一番前にあった馬車の扉を開ける。
「あ、ああどうも」
俺は促されるままに馬車に乗り込む。
クリットもサルガンと言われていた男に扉を開けてもらい乗り込むんだ。
彼女が座った瞬間に馬は息を吹き返したかのように走り出す。
馬車の中……束の間の沈黙
彼女は俺を見ていた。ただずっと。目を逸らさずに。
すると彼女のポケットから電話の音が鳴る。
ピリリリピリリリ
沈黙が破られる。彼女は俺から目を逸らしスマホを取り出す。
え!!!スマホ!!スマートフォン!!?
え…どうゆう事だ。ここって本当に異世界??
その驚きは声に出ていた。
「え……スマホ…?」
突然、彼女は目を見開く。
しかし声は変わらず電話から流れる声に耳を傾けてる。
「はい。はい。分かりました」
彼女は電話を切ると少し興奮気味に尋ねた。
「あなた!転生者!?」
「………はい」
すぐ言わなきゃいけない状況に陥るとは思っていたけどまさかスマホから転生者がバレるなんて……
「……転生してから何日?」
「今日、転生したばっかです」
「今日?」
彼女は少し笑った。それは今まで見ていた笑みより自然なものだった。
「そうなんだ。それであの大きさの一角熊を?」
「はい。まあそうですね」
今までの彼女の顔が嘘のように剥がれていく。
これが本来の彼女なのだろう。
「あなた名前は?」
「グリムです」
「違くて前世のお名前は?」
「坂木尊人です」
「坂木……尊人…フッフフハハハ」
彼女は顔を抑えて笑い始めた。
「随分と遅くなったわね」
「え?」
「私はミラーセ・ステラ、西条シズカさんは覚えてる?」
今度は俺が目を見開く番だ。
「は、はい!覚えてます!あの彼女も?」
「ええ大昔にね。でも……死んでしまったけど」
死んでしまったけど……死んでしまったけど……
その言葉が俺の脳内に響く。
西条先輩は死んだ?死んでしまった?
「このスマホもあなたが暮らしていた世界の事も彼女から教えてもらったわ」
「な、何で?そんなまさか俺……まだ…まだ!」
「………彼女からの伝言を預かってるわよ」
俺は下げていた顔をあげてミラーセを見る。
「最後まで聞けなかったから私から言うね?私と付き合ってください。……ですって」
グリムの目から涙が溢れた。
悲しみを与える事を許した。
グリムは頭を掻きむしる。
何度も何度も。
この不条理な転生に……この理不尽な運命に……
彼は何も抗えない。
「どうして…?本当に彼女は死んでしまったんですか?」
グリムは……坂木尊人は目を背ける事にした。
彼女が嘘をついてると信じたかった。
しかしミラーセが流した一粒の涙が嘘ではないと証明する。
「…か、彼女はずっとずっとあなたを探してた。でも…でも!彼女は……もうどうにもならなかった。運命は変わらなかった。何もかも……その全てが彼女を!西条シズカを!!」
ミラーセは自分のズボンを握る。
「……それで亡くなった。俺の希望は……西条先輩は……それで……」
何も見えなかった。光を失った。
「俺には何もなかった精神が壊れて何も出来なくて死のうとしてた時……彼女は俺に生きる希望をくれた……何もなかった俺に生きる力をくれた……ただいるだけでよかった」
ミラーセは静かに彼を見る。
流れる涙で前が見えなくても……それでも見続けた。
闇に染まった野鳥が黒鳥に変わる。
黒鳥の群れは一斉に鳴き出す。
それは西条シズカの鎮魂歌か……それとも……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます