05ページ目 "老爺"と"魔動義装" (2)




グツグツと煮える鍋の音が部屋中に響く。


「…そろそろ煮えたみたいだな」

クリットは鍋に入ったシチューそれと干し肉とパンを俺の分まで用意してくれた。


「食いながら話すか。グリムの前世の名前はなんて言うんだ?」

クリットはパンをシチューにつけながら聞いた。

「俺の前世の名前は坂木尊人って言うんです」

「サカキタカトね……みんなが聞いたら一発で転生者ってバレるな」


俺もシチューをスプーンで掬い口に入れた。

ちゃんと味がする。ロボットの体なのにすごいな。


「うまいか?」

「はい。あとこの世界では転生者ってバレると何か不都合があるのですか?」

「いやあまり無い。だが珍しいからな。注目される」

「注目されるのは嫌だな」

「ならあんまり人前で言わない方がいい」


窓から見える景色が茜色に染まる。

太陽が眠そうに瞼を閉じようとしていた。


少しの間、グリムとクリットは食事を続けた。


「ああそうだ。"魔人獣"って何ですか?」

「魔人獣を説明する前にまずは"人体魔力エーテル"と"自然魔力マナ"について教えてやろう」

「エーテル?マナ?」

クリットは干し肉を奥歯でちぎりながら頷く。


「エーテル…人体魔力と書いてエーテルと読むんだがエーテルは生物が宿している魔力の事だな。それでマナは自然魔力と書く。マナは読んで字の如し自然から発生する魔力のことだ」

「生物が持っているのが人体魔力……エーテル。自然から生まれたのが自然魔力…マナってことか」

「そうゆう事だ」

俺はパンをシチューに浸して口に入れた。



「それでだ。エーテルを持つ動物のことを"魔獣"その中でも大量のエーテルを持っていて知性を持つ魔獣を"魔人獣"って呼ぶんだ。俺はお前が本なのに喋るから魔人獣って勘違いしたって訳だ」

「俺は転生者だけど…魔人獣で間違ってないかもな」

「まあそうだな。人間じゃない以上、お前は魔人獣だろう。でもそれは人前では言わない方がいい」

「どうしてですか?」


目の前にある皿は空になっていた。


「魔人獣達が結託してあちらこちらで戦争してるからな。侵略戦争って奴だ。自分達のことを魔王軍って呼んで侵略した国を植民地にして国民を奴隷にしてやがる」


クリットは最後のパンを口に投げ入れた。


「まあだからな。自分は魔人獣だ!なんて言ったら魔王軍だって思われて迫害されたり最悪、捕まったりする」

「それはもっと嫌だな」

「だろうな。まあ安心しろよ。その魔動義装オートギアは完全に人間に寄せて作られてる。なんにも機械らしい機能はないがその分、魔動義装オートギアだってバレる事は無い」


クリットは自分が作ったかのようにドヤ顔をした。


俺はそれを聞いて安心した。

本当に人間と同じ身体だもんな。

俺も機械だって事忘れそうだ。


「俺は危なかったって事ですね。もしクリットさんじゃなかったら俺、魔王軍だと思われて最悪な目にあってましたね」


クリットは少し笑った。


「お前がずっと俺の脳内に助けてください!俺は魔導書なんです!とか言われ続けたら助けない訳にはいかないだろ」


「本当にありがとうございました!ここまでよくしていただけるなんて」

「もういいさ。それとそんなにかしこまんなよ。転生者に会えるなんて滅多にないからな。気楽にいこうぜ?」


クリットは好々爺の様な笑顔を俺に向けた。


心が温かくなっているのは決してシチューのおかげだけではないとグリムは思った。


「それでだ。次はユニークスキルの事だな。特異技能って書くんだが……」

「あ、ユニークスキルのことは知ってるんです」

「そうなのか?覚醒エボルブの事も?」

「はい」


クリットは少し考えた後、言いにくそうに質問した。


「なぜ知ってるんだ?それにグリムって名前だが誰につけてもらったんだ?」



俺はこの人には言ってもいいだろうと思った。

色んな事を隠し続けたら信頼関係だって築けない。


「俺の中には俺がユニークスキルで作り出した人達がいるんです」


ジータとラムダは何も言わなかった。

グリムと同じ考えだったからだ。


「その人達が教えてくれたと?」

「ええでも【"女神"】だけは分からないんですけどね」

「つまり【"読書家のリーディング魔導士ソーサラー"】と【"電脳のデジタル魔導士ソーサラー"】から生まれた者がいるって事か」

「ええラムダとジータって言います」


するとクリットはいきなり笑った。


「お前自分のスキルを言い過ぎた!俺がどんな奴かも分からないのにそれ以上は言わないでいい。それと他の奴に無闇に言わない方がいいぞ」

「だけど俺の命の恩人だからさ」


クリットは人差し指を上げるとそこから砂が出てきた。


「え?」


その砂が鳥の様に自由に飛び回る。


「これが俺のユニークスキルだ。砂を生み出し操る事ができる」

「でもそんな……隠しておくべきなんじゃ……?」


クリットは真剣な顔つきになった。

飛び回ってた砂は風に吹かれたかの様に消えた。


「グリムが俺を信用して教えてくれたんだ。俺はその信用に答えただけだ」


グリムはこの人に助けられて本当によかったと心からそう思った。


「ありがとう。クリット」

「こちらこそだ。グリム」


茜色の空が濃くなっていく。

夜は近い。


「今日はここに泊まっていけ。明日からどうするか考えよう」

「本当に助かるよ。ありが……」


ドーン!ドーン!ドーン!


家の外から何かの足音が聞こえて来る。


「なんだ?」

2階に上がろうと梯子を登っていたクリットが降りて来る。

「分からないだけど何かが近づいて来る」

俺は窓を開けて前方を見る。


そこには全長6メートルぐらいの大きな熊がこちらにゆっくり迫ってきていた。

しかし他の熊と違う点があった。

それは額に大きなツノが一本生えていた事だ。


「ツノが生えた熊がいる!!しかもデカイ!」

「一角熊か……!!」

クリットは玄関のドアを勢いよく開けて外に出た。

グリムもクリットの後を追う。



外は平原のようになっていて周りは森だった。

森から来たのだろうか?


「グオォォ!!!」

一角熊が雄叫びを上げる。


クリットの周りに砂が出現する。


「下がってろグリム」


俺はその大きな一角熊を見て何故か恐怖は感じなかった。

感じるのは闘志と好奇心。


自分のユニークスキルを思う存分、試したいと思った。


「いやクリットここは俺にやらしてくれないか?」

「……分かった。危なくなったら援護する」

クリットは一角熊から目を逸らさずに答えた。


俺は一歩ずつ一角熊に近づいていく。


一角熊もグリムの闘志に気付きスピードを上げる。


そして一角熊とグリムは同時に止まった。


その距離はちょうど後一歩進めば魔獣の刃が届く距離。



よし試してみよう俺の力を……!!


接続アクセス ジータ!!』

『待ってました!!』


グリムと一角熊は睨み合う。


「"蒼電弧ブルーアーク"!!」


グリムの手のひらに青色の中心が空いている円のようなものが現れた。


円が回転し群青色に光る雷を生み出す。


一角熊が少し怯む。


「来い!!」

「グォォオオオ!!!」


一角熊が襲いかかる!!

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