04ページ目 "老爺"と"魔動義装" (1)




魔法図書館の頭上…空から老爺の声が降ってきた。


「今、声が……」

俺はジータの方を向く。

「うんこれチャンスだよ」


俺は少し頷いて空に向かって声をかける。


『そうなんです!助けてください!』

『お、おお分かった!ちょっと待て。家まで持っていく』


老爺の困惑が混じった声で返してくれた。


「やりましたね!こんなに早く活路が開けるなんて運がいいですよ!」

「このお爺さんに助けてもらおう!いい人そうだし」

送信セッションが届いたのかな?」

ジータは空を見上げて陽の光を手で遮る。

「顔は見えないね」


ラムダが手を挙げる。

顔が少し赤くなっている。

早くに道が開けたことに少なからず興奮しているようだ。


「はい!はい!スクリーンに映ってるんじゃないですか!」

「あ!確かに」

「早く行こ行こ!」


俺達はロビーに向かう。

しかし結果は……


「何も映ってないね」

「ダメかー」


スクリーンは闇を映したままだ。


『おーい聞こえてるか?』

老爺の声が明確に聞こえてくる。

『聞こえてます!』


『お前は一体何なんだ?"魔人獣"か?』


「魔人獣って何?」

「分かりません」

「この人には俺のことを言った方がいいんじゃないかな?」

「……まだ素性が知れてませんがせっかく助けてくれようとしてますしこれは運ですね」

「いい人か悪い人かそしてこの世界にとって転生者の存在がどうなっているのか」


俺とラムダは思案したが老爺の声で遮断された。


『おーいどうしたんだ?聞こえないか?何者なんだ?本が喋るなんて聞いた事がない』


「言った方がいいと思う。話さなきゃ何も始まらないんじゃないかな?」

ジータがそう言った。

「そうだな。この人を信じてみよう」


『俺は転生者なんです!俺、目も見えなくてどうにか動けるようになりたいんですけど何か方法ありませんか?』


『なに?転生者……だと?それは珍しい。分かった。方法はあるがまだお前が転生者だという保証がない。魔人獣でしかも魔王軍の手先だとしたら色々面倒だ。』


一応、転生者はこの世界に居るみたいだな。

でもその魔人獣っていうのと間違えられてるのか。

どうすればいいんだ?どうやったら誤解が解けるんだ?


老爺の声はその回答を提示してくれた。

『そこでだ。お前が持っているユニークスキルを教えてくれないか?転生者が持っているユニークスキルは希少な物で類を見ないと聞く。教えてくれないか?』



どうすればいいんだ。この人を信じてユニークスキルを教えるべきか否か。

でも1番最悪なのは俺のユニークスキルが一般的なものでしかも魔人獣に間違えられて燃やされたり危害を加えられること。

しかしこれを逃したら次があるかどうか分からない。


声しか分からないこの人を信じるべきか……


「早く早く言っちゃおうよ!希少なスキルだったらこの人だって知らないわけだし一般的なものだったら別にバレても問題ないよ…多分」

「しかし仮に一般的なスキルだった場合、魔人獣の誤解を解けません」

「それでもここで言わないとどっちにしろ助けてもらえないよ?」

「……言うしかないか。もう転生者だって言っちゃったしかけてみるよ」


『俺の特異技能ユニークスキルは【"読書家のリーディング魔導士ソーサラー"】と【"電脳のデジタル魔導士ソーサラー"】それと【"女神"】この3つです』


しばらくの間、老爺は言葉を発しなかった。

俺の中で後悔が膨らんでいく。


『前2つは聞いた事がない。それに【"女神"】を持っている者は知っているがそいつは転生者だった』


またしばらく間が空いた。


『よし!分かった!俺はお前を信じる事にするぞ!!』


俺はガッツポーズをした。

ジータも飛び跳ねながら俺にハイタッチしてきた。

俺はラムダにもハイタッチをする。


『ありがとうございます!!』


「よっしゃ!!よかった!」

「いい人だったね!」

「ウフフッよかったですね〜」

ラムダはハイタッチした手を眺めていた。


「痛かった?」

「え!いやそんな事ないですよ!」

ラムダは慌てながら手を後ろに隠した。


『まずお前が視覚や身体を手に入れられる方法を教えよう。"魔動義装オートギア"という方法だ。自身の魔力をそれに流すと自分の思うがままに動かす事ができる。お前の場合は全身の魔動義装オートギアが必要だな』



魔動義装オートギアか。義手や義足みたいなものか?

それを手に入れる必要があるのか。


『それでお前は運が良いことに全身の魔動義装オートギアを俺が持っている。本来は俺が使おうとしたが……まあお前に譲ろう』



本当に運が良い!

まさかこの人が持っているなんて!


「超ラッキーだね!」

「うん!」


『ありがとうございます!それでどうすれば?』


『まず注意点を言っておく全身の魔動義装オートギアは魔力を流して動かす方法と全魔力を流して自分の身体にする方法がある。俺もお前も後者の方法にするわけだが一度、全魔力を流してしまうともう元には戻れない……それかお前のユニークスキルで自分を小さくして自動的に魔力を流し続けるかだな。それが出来るならこの注意点は無視して構わない』



「できる?」

俺はラムダに尋ねた。

「はい出来ます。大きさと数は自由に変更可能です!」


『出来ます!自由に大きさを変えられます』


『分かった。なら今の自分より3倍ぐらい小さくできるか?そうすれば魔動義装オートギアの中心部に入れる事が出来そうなんだ』


「わかりました!小さくしますね!」

ラムダは言った。

「完了しました!」


『よしちょっと待ってろ。今入れてみる』

『わかりました』



「まさかこんなに早く外の世界が見れるなんてな」

「よかったね!グリム!順調じゃん!」

「まだゆっくりしたかったら成功してからここに戻ればいいですからね?」

ラムダは俺を心配する。


「ありがとうラムダ。でも大丈夫」


すると魔法図書館からグリムの姿が突然消えた。


「え!?グリムが……」

「グリムが消えちゃった!」




俺は暗闇を見ていた。

近くには人の気配がする。

何かをグツグツと煮る音がしていい匂いが鼻腔をくすぐる。


これはシチューか?


俺は瞼を開けた。


そこには赤のローブを羽織った長い白髪を後ろで綺麗に結んだ老爺が立っていた。


「成功だな。お前、名前は?」

老爺は笑った。

「俺はグリムです。あなたは?」

「グリムか。俺は…クリットだ。よろしくな」


これが坂木尊人……いやグリムが異世界に来てのファーストコンタクトだった。



クリットの家はそこら中に本が転がっていた。

本棚から溢れた本が床にばら撒いたかのように置かれていた。


他にあるものは丸椅子と同じく丸机それと鍋を煮る台所のようなものだけだった。


こちらも魔法図書館と同様に2階が吹き抜けになっていて梯子で登るみたいだった。


家族で住むには小さいが一人暮らしをするなら十分な広さを持った家だった。


『グリーーム!!見えた見えたスクリーンに映ったよ!』

『おお!これがクリットさんなんですね』


ラムダとジータの声が脳内で聞こえてくる。

クリットには聞こえてないみたいだ。


『ああこっちからも話せるみたいだ!』

『おお!グリムの声が聞こえる!』


ラムダとジータと話せるみたいだ。



「それでどうだ。グリム。魔動義装オートギアの具合は?」


俺は手を動かしたり足を曲げたりしてみた。

服装は上はタンクトップの様な感じの服で下はの太ももの所が少し膨らんでいて脛の所から黒の皮の様なもので固定されていた。

色は全体的に白で所々に少しだけ赤の模様が刺繍されている。


「問題ないです。本当に人間の身体みたいだ……」

「そうだろ!それを作ったのは天才的な機工士だからな!」

「機工士って何ですか?」

するとクリットは少し考えたあと納得いったという顔をしていた。

「そうかそうかお前は転生者だもんな。機工士っていうのはまあ簡単に言えば機械で色んなもの作るユニークスキルのことだな。そのユニークスキルを持ってる奴も同じく機工士って言うんだよ」

俺は頷く。



色んなユニークスキルがあるんだな。

クリットはどんなユニークスキルなんだろう?

初対面で聞かない方がいいかもな。


「本当に俺が使ってもよかったんですか?」

「ん?まあいいさ。俺もこんなだからと思ったが踏ん切りつかなくてね。やっぱりこの身体を離れるのが嫌でさ」

クリットはそう言って丸椅子に座った。



「グリムも座れよ。教えてやるこの世界のいろはをよ」


俺は目の前にある窓に反射して映る自分を見た。


そこに映っていたのは黒髪の少年がだった。


これがこの世界の俺か……ずいぶんと若くなったな。



そしてグリムはこの異世界で最初の一歩を踏み出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る