第五集 神異僧の弟子
宮寺に顔を出した際、住職から
同じ仏図澄門下で学んだ彼の
差し当たって急用も無い事から、師兄への加勢も兼ね、道安もまた邯鄲へ向かう事にしたのである。
だが邯鄲へと到着してみれば、
そこでは、まだ若い僧侶たちが、恐怖に歪んだ顔のまま喉を掻きむしったり、地面に叩きつけたように頭を割った死体になって四方に転がっている状態であった。
「道安か?」
そう声をかけて来たのは、まさに師兄である僧朗である。どうやら僧朗本人は無事であったようだが、弟子たちのほとんどを失ってしまったようだった。
「師兄、何があったのです」
「面目ない話だが、恐ろしい相手だった。凄まじい邪念の塊だが、本体はひとつ。しかし恐らく生前の記憶や理性を失っている怨霊か……、或いは
道安が周囲に倒れている僧侶たちの
「彼らは……」
「奴が振り撒く念に
それほどまでに恐ろしい敵……。道安も僧朗も、今は亡き仏図澄が存命であったならと思わずにはいられなかった。
だが自分たちだけで対処せねばならない。ましてここで取り逃がした以上、次に現れるのは邯鄲城市の内部。恐らくはそのまま宮城に踏み込まれてしまうだろう。
特に宮城には皇族……、燕国の
僧朗は道安を連れて宮城にいる慕容秀に謁見し、防衛線が突破されてしまった事を謝罪しつつ、相手の強大さと、近づいた者に自死を促す呪いの性質を説明し、次の策を講じた。
すなわち慕容秀は城市の外縁にある屯所に一時的に身を隠してもらい、僧朗と道安が宮城で待ち構えるという物である。
最も、敵が現れた所で説得も浄化も効かない相手である以上、消滅させるか封印するかしか手はない。そのどちらも、亡き仏図澄ならお手の物だったが、道安には自信はなかった。
少年時代に幾度も目にした老僧の雄姿が目に浮かぶ。それゆえ余計に自分と比較してしまい自信が萎えてくるのだ。しかしやるしかない。
一方で慕容秀の方は、屯所に身を隠す事を渋る事は無く、二人の仏僧に信頼して託した。皇族らしからぬ聞き分けの良さであったが、そもそも皇族になって間もない身の上である。らしくないというのも当然ではあった。
「お二人にお任せいたします。どうかご無事で」
若き王の激励を受けた二人の仏僧は、無言の合掌にて応えたのであった。
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