第27話 島の結界
「そう言えばさ、さっき廊下に出てまで洸兌様と何の話してたんだよ?」
さて皆出て行ったし後片付けを~と、茶器を片付けていると緋劉が近づいて来て不審な顔でそう聞いてきた。
しまった忘れていた、どう答えよう……
すると洸兌様が私と緋劉の間にするりと入って来た。
「いや何さ、チビを霊視したら水難の相が出てたんだよ。本当は、夕刻までにもう一回、船を出して境界線の確認にチビを連れて行きたかったんだけどね~水難と船はまずいだろ?境界線の結界が解術できたらさ、島に入れるかもって思ってて……何?どうした、緋劉?」
いやあぁ~ちょっと洸兌様!話題を逸らすために会話してくれるのは非常に有難いのですが、島に上陸云々は緋劉の探検者魂に火をつけると言いますか……あれ?梗凪姉様まで洸兌様に近づいてますけど……もしや?
「島に上陸してみたいです!」
綺麗に緋劉と梗凪姉様の声が重なった。
結局、洸兌様の言葉のせいで緋劉と梗凪姉様に押し切られるように、船で沖まで出ることになってしまった。水難の相が出ているならやめておきますよ~と散々逃げていたのに、多分皆の相手をするのが面倒くさいんだろう、洸兌様が
「大丈夫大丈夫~いざとなったら、おっさ……漢さんにおんぶしてもらっておけ!」
とか訳の分からない言い訳をされてしまい、船に乗せられてしまった。もう嫌だ……
「先程から何度も言いますがっ、もしうっかり解術でも出来ちゃったらどうしてくれるんですかっ!結界が破れた瞬間に、あの黒い大きな飛翔物体……仮に黒龍様だとすると、それに襲われたらどうするんですかっ!」
私がそう洸兌様に抗議するも、浮かれた緋劉や梗凪姉様は聞いてもくれない。
「まあ、大丈夫っしょ?俺と漢さんいるしさ、それに黒龍様じゃないんでしょ?俺の推察では鳥系の異形だと思うけどね」
洸兌様の吞気な返しに腹が立って、洸兌様を睨み付けた。
「空を飛ぶ異形ですか?そんなのもいるのでしょうか?」
若干喜んでいる(疑惑)ようにも感じる声音で、緋劉が聞いている。
何を浮かれているのよっ!?あんたなんて黒龍様に頭からかじられてしまえっ!
やがて私達を乗せた船は、洸兌様の合図で沖合で停止した。
この辺りかな~と洸兌様が船頭に指示して、船の筏を降ろす準備をしている。
「チビ~見てみ、どうだ?視えるか?」
恐々、洸兌様の指し示す海面を視てみる。目を凝らし霊力の質を視て、確かに複雑な神龍語の術式だと分かった。一度霊質が分かるとこの結界の規模も分かる。目で覆っている結界を目視して行くと……とてつもない大きさだ。
「確かに神龍語みたいですね。しかも大きい結界……封印結界ですね」
「封印結界?チビはそこまで視えるのか?どれどれ?」
洸兌様に術式の視えた範囲を説明する。すると洸兌様は瞬時に術式を組み立て始めた。
「成程、ふんふん、そうかよしっ。一時的だが結界に穴くらいは開けれそうだな。今回はここまでにしとこうか~この中に入る為には人員も戦術も組み立てておかねぇとな」
すごい……あんな私の拙い説明で術式が理解出来たんだ。
すると今まで黙って海面を見詰めていた漢莉お姉様が「待って!」と鋭い声を上げた。
「結界が……また島が見え始めたわ」
皆が見詰める中、結界がゆるゆると動き……例の島が大きく目の前にそびえていた。
「こりゃ……想像していたより大きい島だな、どれ?うっわ!まじ半端なく異形が海岸に居るわ。あ~空飛んでるあれか?黒龍様……じゃねえな、鳥みてぇだな、ん?うわっこっち来るわ!」
何が来るの?とか思っている暇は無かった。黒い大きな飛翔物体が目の前に飛んで来て、私達の眼前でどーんと何かにぶち当たって海面に落ちた。その何かは、物理結界!?術者は洸兌様だ!
「チビッ!お前の防御結界も張っておけ!漢さんいけるか?」
「当たり前でしょ?私を誰だと思っているのよ!」
漢莉お姉様は大鎌をぐるっと振り回すと船首に走り出た。すると水面が盛り上がり、また黒い何かが飛び掛かってきた。
「はっ!」
漢莉お姉様が飛び上がると同時に、捕縛術が起動してその黒い鳥?だろうかは空中で停止した。そこへ一閃、漢莉お姉様の振り抜いた鎌が黒い鳥を両断した。
ものすごい悲鳴のようなものを上げて、海中に落ちて行く飛行型の異形を慌てて確認した。
「み、見て下さい!黒い何かが海水に溶けて……嘘っ!?大鷲だ……」
黒いブヨブヨしたものが剥がれ落ちていくと、確かに鳥は大鷲だった。と言う事はだ……まさか?
思わず洸兌様を見る。梗兌様は髪を掻き上げると海面を睨みつけていた。
「他所の人間には内緒にしてくれ。そう……異形の正体は普通の動物、時には人間なんだよ」
「そんなっ!?」
「!」
私、緋劉、梗凪姉様の短い悲鳴が上がった。
じゃあ今まで切ってきたのは元動物だったり、人だったってこと?
洸兌様は頷きながら私の方を見た。
「この間、異形を医術師が検死していただろう?一つ分かったことがある。あれは何かの呪術に晒されたものを食べて、呪われたと推察された。つまりだ、普通は鳥や獣なんかを呪詛するか?動物を呪うなんてまず無いだろ?じゃあ、呪ったり呪われたり生き物の中でわざとするのは何だ?」
「人間……」
緋劉がそう呟くと、洸兌様は頷いた。
「そう、あの島で誰かが人間を呪詛して呪詛に侵された人間のその血肉を生き物が食べてその動物や害獣が、呪いの連鎖で異形になっている。先日、水死体が上がっただろ?あれがもしかすると呪詛を受けていた大元の人じゃないかと今、慎重に検死している。何せ得体の知れない呪術の可能性が高いしな」
なんて大きな呪い……島に大量の異形を発生させてしまうなんて、目に見えない何かが島全体を覆っているようだ。島はまだ隠れずに見えている。まるで、おいでおいで……と誘われているようだった。
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