第26話 魂の呪縛

厳しい現実を知り、意気消沈している緋劉を促して台所に行った。そして慶琉夏王と護衛のお兄様のお茶の準備をしていると、ヒョイと誰かが台所に顔を覗かせた。


「俺に憧れてる男の子ってどの子~?」


そう言われて振り向くと、青みがかった銀髪で背の高い格好いいというよりは綺麗なお兄さんが、にこにこした笑顔で入口に立っていた。


「きゃあ格好いい!」


思わず叫んでしまったのは許して欲しい。先程も申しましたが美形は身を助ける、美形は七難隠すですから。


「うん?あれ?あ!チビちゃんは霊力の底なしちゃんかな~」


チビ……底なしちゃん……間違っていないけど、その呼び名よ。綺麗なお兄さんは笑顔のまま台所に入って来ると、緊張と興奮からか真っ赤になっている緋劉の前に来た。


「おお?少年、君か~どれどれ?うん、うん!中々良い霊力だ。体はどれどれ~」


と言ってぱぱぱっと緋劉の体を触って行く。岩乙女のねちっこい撫でまわしと違って安心して見ていられる触り方だ。


「うんうん!体も鍛えてるな、身長もまだ伸びそうだ。良い人材だ~宜しく!俺、李 洸兌りこうえつ。え~と四天王が一人、増長天です」


緋劉は、ぱあっと笑顔になると


「が……斈 緋劉ですっ!十四才です。お会い出来て嬉しいです!」


と、余程嬉しいのか霊力の光を弾き飛ばしながら、洸兌様にご挨拶した。


眩しいな~と思って目を細めて緋劉を見ていると、緋劉と私を交互に見た洸兌様は不思議そうな顔で首を捻っていた。


「うん?君達さ……何か、呪術的なものかな?魂まで縛られてなっ……いぃぃ?!」


洸兌お兄様の言葉を最後まで言わせなかった。私は全力で洸兌様を廊下に引っ張り出すと……息を切らしながら


「今のどういう意味ですかぁぁぁ!?」


綺麗な洸兌様の顔に、にじり寄った。洸兌様は何か察したのか、若干意地悪な顔をした。


「教えてやってもいいけど……チビは何か秘密を抱えてるのかなぁ~?」


と、にやにやしながら聞いてきた。


しまった……この人も腹黒かな?呪術がなんなのか気になるので渋々、簡単に自身の事を説明した。


「私は、追憶の落とし人です。国には黙っています。ひ、緋劉は……その、前世で知り合いです、以上です」


そう説明すると、洸兌様は表情を引き締めた。


「了解、あいつには内緒だな。端的に言うと呪術を使ってチビと緋劉は結ばれてしまっている。気持ちとかじゃねぇよ?魂がだ。永遠に廻りながら必ず出会う呪いだな」


廻り合う……呪い?


「そんなっ……いつ、そんな呪い、いつかけられたんですか!?」


すると、急に走り逃げた?私を怪しんで緋劉が廊下に出て来た。洸兌様は私の頭をぽんっと一撫でしてから


「今度詳しく霊視してやるよ、んじゃな。緋劉も今度稽古つけてやろうか?」


と、上手く緋劉の意識を私から逸らしてくれた。


稽古と聞いて上機嫌になった緋劉を連れて、こちらに手を振って合図しながら洸兌様は広間に行ってしまった。


どっと疲れた。呪いと聞くと気が重くなる。呪いなんていつかけられたんだろう?少なくとも壬 狼緋とすごした緑斗村でそんな怪しげな術をかけられた記憶が無い気がするんだけど……


お茶の用意を広間に持って行くと、緋劉と何故だか手伝ってくれる洸兌様と三人でお茶を皆様に配った後、洸兌様が「いいっすか?」と手を挙げた。


「申してみよ」


慶琉夏王が促すと、洸兌様は立ち上がり一同をぐるりと見た。


「先程、漁師のおっちゃんに沖に船を出してもらって、島があると推測される海域を霊視して来たんっすけど、薄っすらとですが国境もしくは領域…と表現する方が適切ですか?え~つまり、島とこちらとの境界線だと思しき結界の境目を確認することが出来ました」


「結界!?」


皆の驚きの声が上がった。


結界……と言う事は島を見えなくするような特殊結界を張っているの?そんな術ってあったっけ?書物殿で読んだ術式の本の内容を頭の中で反芻する。


「神龍語霊術……」


私が呟くと、洸兌様は満足そうに頷いた。


「流石、ちび!そうっすね、恐らくは神龍語で描かれています。恐らくというのは、俺も簡単な神龍語なら読めますが、この結界は古代神龍語で複雑で時間かかる、怠い。取り敢えず時間がかかるので帰って来ました」


「あんた根性無いわね~」


漢莉お姉様がそう洸兌様に言うと、洸兌様はじろりと漢莉お姉様を睨んだ。


「何だよ?そんなに言うなら、おっさんが視て来いよ!船の上で霊視してると船の揺れで目が回るし、炎天下で暑いんだよ!」


ひえぇ……漢莉お姉様をおっさん呼びしちゃった。するとおっさん呼びされた漢莉お姉様はわなわなと震えると


「もうぅ……洸兌ちゃんって顔は綺麗なのに言葉使いが悪いったらないわっ!もうっ嫌な子ね!」


と、くねくねしながら反論していた。


一瞬、室内にすっぱい雰囲気が漂った。その雰囲気をぱんっと手を打って慶琉夏王が変えられた。


「よし……まずは今、明歌南から参じている使者と打合せだな」


そう言って兄弟皇子様は、そそくさと広間を後にした。その後ろを執金吾きんしつごの皆様と秦我中将と漢羅少尉が続った。

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