第25話 子供の夢を壊す岩乙女
その日の夕刻
愁様達は意外な方々をつれてご帰還された。
「きゃあああ!
岩乙女の大音量の悲鳴(歓声)にびっくりしたような顔を浮かべたお方を見て、慌てて膝を突いて叩頭した。
慶琉夏王、愁釉王の腹違いのお兄様で第三皇子。愁様に顔は似ておられないけれど、同じ白銀髪の髪色を持つ系統の違う美丈夫様だ。剣の腕前は国一番と謳われるほどで、今は禁軍の大尉総督で在らせられる。
「皆、大義であったな。愁から大体は聞いている。それも踏まえて陛下より勅書を賜っている」
皆、息を飲んだ。現皇帝、
慶琉夏王と共に来られていた禁軍の護衛、
「栢祁羅帝より勅である。以前より異形の襲来が頻発しており、多数の民が被害にあっている現状を鑑みて、これより丙琶にて第壱特殊遊撃隊のみが行っていた討伐を禁軍より選抜せし者と合同で討伐ないし殲滅の任にあたるようにとの命である。……まあ、要するに私達もお手伝いするよ、ということだね」
と、最後は砕けた言葉使いで慶琉夏王は告げられた。
「き、禁軍と……」
私の横で緋劉がごくりと唾を飲み込んだ。
禁軍……とは現皇帝陛下の命で動く国の精鋭部隊、選ばれし中の更に選ばれし方のみ在籍を許されている部隊である。兎に角、選抜で選ばれる為に常に人数が定まっておらず、その禁軍の頂点に立たれているのが慶琉夏王様で、その下に四天王と呼ばれるものすごく強い四名の方がおられると聞く。
勿論、私のような下っ端には四天王は雲の上の人過ぎてそのお顔どころか、性別年齢不詳なことは確かだ。
実は四天王もその選抜の都度、入れ替わっているとかないとかで実態がよく分からない。
岩乙女が慶琉夏王にねっちょりと近付きながら、嬉しそうな声を上げた。
「あらっ?じゃあもう、こそこそ手伝わなくて済むの?」
「お前はこそこそどころか、堂々と愁について行っただろう?」
ん?ん?慶琉夏王と漢莉お姉様(男)の気安い言葉のやり取りに、いや~な予感がする。
すると漢莉お姉様がうふっ♡と笑いながらこちらを見て小首を傾げた。
「改めまして♡禁軍四天王が一人、持国天よ~宜しくね!」
「嘘だろっ……」
緋劉が絶叫して突っ伏した。緋劉の気持ちが良く分かる。緋劉もちょいちょい「禁軍の四天王ってどんな人達かな?めっちゃ強いらしいし、かっこいいお兄さん達なんだろうな~」なんて妄想していたもんね。
夢破れたね、あれじゃあね……憧れも霧散するわ。仕方ない、緋劉の代わりに私が言っといてやるよ。
「子供の夢を壊すな!……これは独り言です」
岩乙女は、まあぁ……と頬に手を当てた。その仕草もやめいっ!
「ほら見ろ、お前の正体を知ったら大概の子供は泣くか落ち込むんだからな」
慶琉夏王は苦笑いを浮かべている。漢莉持国天様(絶望)は片手を頬に当てたまま
「失礼しちゃうわ!私ぃ真面目に四天王のお仕事してるのよ?」
とか言っている。
そうじゃないよっ!岩乙女の見た目やその他諸々が、四天王に憧れる幼気な少年の心をすっぱい気持ちでいっぱいにするんだよ。
私は緋劉の打ちひしがれる背中を撫でながら慰めた。
「緋劉、大丈夫だよ。まだお三人いらっしゃるし、きっと残りのお三方は格好よくてきりっとしている美形のお兄様だよ」
「ちょっとぉぉ、凛華ちゃんひどいわっ!」
「あれ?漢莉お姉様、きりっとした美形の
私がそう言うと、漢莉お姉様は口の中で何かぶつぶつ呟きながら
「確かに私は乙女だけどぉ~」
と、口を尖らせていた。そのやり取りを見た慶琉夏王が楽しそうに私の顔を覗き込んで来た。
「君は、彩 凛華だね?歴代最高霊力量保持者の、いやぁ漢岱の扱いが上手いね~あ、そうそう残りの三人だけど確かに三種三様の男前だね。癖は強いけど……」
慶琉夏王の言葉の最後に若干引っ掛かりは感じるけど、美形は身を助ける、美形は七難隠すとも言うしさ!え?言わない?すべての欠点は美形で補えると思うのよね!(個人的主観)
私のその言葉に立ち直ったのか、顔を上げた緋劉が慶琉夏王に問うた。
「その……今回、選抜された禁軍の方々の中に四天王様達も入られているのですか?」
「ああ、そこの漢岱の他にもう一人来るよ。今日は一人で海に出ていて、例の島を見に行っているはずだ。武人ではあるけれど、そうだな……彩 凛華の次に霊力が高い奴かもな。そろそろ戻ってくるんじゃないかな?」
ええっ!そんなにすごい術士兼武人様なの?ほらほら、緋劉っ岩乙女のせいですっぱい気持ちになったけど、あんたが憧れる格好良いお兄様はまだいるよ!
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