第24話 明家南公国の使者

「もうっそれはそれはっ素敵な告白だったのよぉぉぉ!!」


岩乙女こと、黄 漢岱(男)漢莉お姉様はさっきから泣き崩れている。瞼が腫れちゃうよ?あ、腫れたって気が付かないくらいな鋭い目力をお持ちか。


物陰から私達のことを隠れて盗み見していたくせに、急に飛び出して来て私に抱き付いてきた漢莉お姉様は、私と緋劉の交互に抱き付いて泣き崩れていた。あまりに泣き叫ぶから皆が集まって来て、とんでもなく恥ずかしい場面が全員に暴露されることになってしまった。


「ちょっと!?こんな所で赤裸々に言う必要性をまったく感じませんけどっ!」


絶対、顔が赤くなっていると思うが反論せずには要られない。まだ泣いている岩乙女を蹴り飛ばしたいくらいだ。


緋劉なんて見てみろ!茹でた蛸みたいに真っ赤になっているじゃないかっ!


「まあ、そう言ってやるな。まるで母親みたいに、お前らの事で気を揉んで夜も眠れなかったほど心配していたんだ。これくらい許してやれよ」


なんだかどこかで聞いたことのある、男の庇い合いの台詞ですねっ愁様!


「私的な事であまり口を挟みたくはありませんが……」


きらっと眼鏡を光らせて伶 秦我中将が緋劉の方をジッと見ながら口を開いた。


「まだ未成年だということをお忘れなく。節度あるお付き合いをするように、いいですね」


「はい……」


緋劉はまだ耳を赤くしていたが伶 秦我中将のお言葉に、神妙に頷いている。


「ほらっ漢莉ももう泣き止んで?今日はお付き合い一日目ね。初々しい二人のお祝いをしましょうか!」


「やめて下さい!」


梗凪姉様まで浮かれていないか!?何だって言うんだっもうっと思っていると


「失礼、愁釉王はおられますか?」


との声が玄関先から聞こえた。皆で裏庭から玄関先に回ると、声の主であろうおじ様を含む三人の軍人とお見受けする方々が玄関先に立っていた。


素早く軍服を目視すると『明歌南みんかなん公国』だと分かった。


軍人様三人は膝を突く、と叩頭してから話し出した。


「私は明家南公国の南部総督をしております西ざいと申します。これは部下のりょうと申します。実は此度は少々厄介なことがおこりまして、是非とも愁釉王に立ち会って頂きたく参上致しました。こちらが大公より賜った文で御座います」


「おお、大義であったな。どれ……」


愁様は文を読み終わった後に、文の内容に触れて少し話して下さった。


明歌南の西隣に位置する苅莫羽牟かるなかはむ王国から抗議文が送られてきたとのこと。明歌南の大公様とお偉いさま方で慌てて抗議文を確認したとのこと。


「つまり……異形が苅莫羽牟に押し寄せているのは明歌南が異形を苅莫羽牟に押しやっていると言ってきたと言う事か?」


「端的に表現するとそういうことです」


西総督は苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「異形などどうやって押しやるんだ?なあ、秦我は知っているか?」


「棍棒で突けば方向を変えるのではないでしょうか?」


やめてあげてよ、愁様。伶 秦我中将は真面目なんだよ。冗談も冗談で返せないんだから……


西総督の後ろに控えている陵さんが、愁様の伶 秦我中将の返答を聞いて吹き出した。そして慌てて咳払いをしている。


「しかし難儀なことを言いよるなぁ。どこの国に来るかは異形の気まぐれだろう?そんなに見当違いな文句を言って来るなら、うちの方に現れた異形を棍棒で突いて苅莫羽牟に送ってやろうかな~」


いやそれもやめてあげてよ。もし棒で突いてうっかり苅莫羽牟に行っちゃってごらんなさいよ、当て擦りどころか戦争でも仕掛けられたら困るからさ。


しかし愁様は、本当に棒で突き回しそうで怖い。


「兎に角、異形の動向に関しては事実無根であることを第三国で在られる立場から愁釉王にもご証言頂けたらと……」


西総督が深々と叩頭されると、部下の方も倣って頭を下げられた。


「ああ、成程成程~いいよ!でも一度皇帝陛下にご相談という形で報告させて貰ってからでよいかな?恐らく私の立ち合いの許可は出ると思うが、一応ね」


明歌南の三人は、しばらく港の船に停泊しております。と、告げて帰られた。


愁様は明歌南の大公様の文を懐に仕舞ってから


「じゃあ、燦坂に言って皇帝陛下にお会いして来るかな……」


とか言いながら私をチラッと見てきたので、素早く


「空は飛びません!斬首刑は困ります!」


と言い放った。愁様は頬を膨らませると


「凛華ぁそんな意地悪言うならなぁ、お前たちの婚姻を認めてやらんぞぉ!」


「なぁ!?」


どこかの頑固親父のような捨て台詞を吐いて、伶 秦我中将と黄 漢羅少尉に連れられて行ってしまった。


「もうっ何あれ、何あれっ!」


叫ばずにはいられない、気恥ずかしすぎて緋劉の顔も見れない。婚姻なんてまだ早いっ!まだ早いどころかまだ付き合いの何たるかも分かっていないのに、頭を高速回転させて書物殿でこっそりと見た、男女のあれこれ図鑑を思い出していた。


う、う、嘘でしょう?私にあんなの出来るの?


「大丈夫よ!愁様が反対されようとも私は味方だから!」


漢莉お姉様はそう言いながら、緋劉と私を一緒に胸の中にむぎゅーっと抱き締めてきた。


そんなお姉様の腕の中で緋劉と目が合う。照れくさそうに笑う緋劉の、まあ綺麗なこと……目が潰れるわ、おまけに腕の圧迫で内臓も潰れそうだわっ!

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