第21話 丙琶の歓迎会

やだ~っも~っとか言いながらも漢岱……漢莉お姉様は、男性達ときゃっきゃっ言いながら飲み会に出かけて行った。


本物の女子二人で留守番である。


私は梗凪姉様の食べ物の好みをお聞きしながら、白身魚の餡かけ、葉野菜の胡麻和え、海鮮の塩炒め、白湯汁、胡麻団子、朝から作っていた芒果布丁まんごーぷりんの夕食にした。


「きゃあ、すごいわ凛華!やだっ美味しいっ」


姉様可愛いな……これはあの愁釉王もわね。


そうして二人でのんびりと夕食を取っていると、突然、玄関扉を誰かが叩いている音がした。


「何かしら?」


「私が応対します」


私は不審者対策に、防御結界を自身に使いながら玄関先に移動した。


「どちら様ですか?」


扉の向こうには二人の霊質を感じる。変な邪気は感じない。


「すみません、丙琶の漁師をしているこうと申します。あの先程、海から異形が現れまして……」


私は急いで扉を開けた。そこには顔色を悪くした、若い男性と初老の男性二人が立っていた。


「こちらに異形の討伐に、国から軍人の方が来ているって聞いて……」


「出現場所は海岸の西の外れの方です。漁港の倉庫しか無い所なので、住居はありません」


初老の男性の次に、若い男性が矢継ぎ早に現状を説明した。後ろから梗凪姉様が近づいて来て


「隊長の方が今、出払っておりますがすぐ向かいますので、暫くお待ち下さいませ」


梗凪姉様がそう答えると、漁師さん達は安堵したような表情を見せると、お願いしますと頭を下げてから帰った。


愁様不在のこんな時に異形の出現である。梗凪姉様が何度か頷きながら、私の方を見た。


「愁様にお知らせしなきゃね、あら?どうしましょう。うっかりしていたわ、飲み会の場所を聞いてなかったわ」


「あ、姉様私が分かりますので知らせて来ます」


梗凪姉様は私の言葉に眉をひそめた。


「何言っているの、凛華はまだ小さいのに夜歩きなんて……一緒に行きましょう」


あら、そうだった。私まだもう少しで十三才の未成年でしたね。夕食の片づけをしてから家を施錠し、姉様と二人で丙琶の夜の街に繰り出した。


まずは、霊力を落ち着けて緋劉の場所を探る。こっちの方角だ。


「姉様こちらの方です」


「え?あの、そう言えば凛華はお店の名前を聞いていた訳じゃないのね?」


「あ~え~と……どう説明したらいいのか……」


まあ愁釉王とか漢莉お姉様なら、何故分かるかを説明すると囃し立てられる可能性もあるけれど、梗凪姉様なら大丈夫か……


「なんとなくですけど、緋劉の霊力の位置が分かるのです」


何となくどころかはっきり分かるけどあえてぼかして答えたら、やっぱりと言っては何だが梗凪姉様は、頬を染められて目を輝かせた。


「そ、そうなのぉ~まあぁぁ……いつも緋劉君がどこに居るか分かるのねっ!」


「本人の居所が分からない時は便利ですが、後はこれと言って……」


姉様は聞いちゃいねえ。まあ~とか素敵~とか、妄想の世界に入られている。まあ乙女には是非とも欲しい能力?ではあるかもね。私の場合、何故か緋劉限定だけど。と言うか呪いだの祟りだのは信じていないけど、この感じる能力に関しては何かの呪いの類いなのじゃないかと思ってしまう。


うだうだとそんな事を考えながらも、緋劉の霊力を追いながら一軒の綺麗な建物の前に辿り着いた。


「あら?ここ?丙琶の地方官長のお屋敷ね」


ですよね、丙琶に長期逗留する際にご挨拶に伺いましたものね。


取り敢えず玄関の扉を叩いた。


「失礼致します」


暫くすると扉が開いて、女性が顔を出された。


「私、第壱特殊遊撃隊の彩と申します」


応対に出られた女性にご挨拶すると、女性は笑顔になりすぐに招き入れてくれてご案内してくれた。どうやら私達も飲み会に参加すると思われているらしいが、まあ一々否定するのもおかしなものだ。


「こちらで御座います」


「有難う御座います」


そして私と梗凪姉様は室内に足を踏み入れた。高座の所には愁釉王がいらっしゃる。入って来た私達に気が付くと


「おお?どうしたの?」


と、声をかけたが……愁様はちらっと広間内を見て、急に顔色を変えた。何だろう?と思い愁様が見た方をつられて見た。


広間の中央に遊撃隊の面子と役人の方々が居る。その周りには煌びやかな装いの女性達が居た。まあ一目で分かるそのような接待の女性達だろう。その女性の一人に抱き付かれて、頬に口づけを受けている緋劉がそこに居た。


緋劉と目が合った……と思ったら一瞬で緋劉がいなくなった。正確には漢莉お姉様にどこかに連れて行かれたようだ。


私はすぐに視線を戻すと愁様の前まで行き、腰を落として頭を下げた。


「ご歓談の所、失礼致します。只今漁師の方より港の外れに異形が出たと通報がありました。如何対処致しましょうか?」


「う……ぁ、ああ!そうだなっすぐに参ろう!よしっ……皆ぁ討伐の準備をしろぉ!」


何だか、愁様の言動がへろへろのよれよれである。すると今まで黙って横に立っていた。梗凪姉様が静かに口を開いた。


「愁様……」


「ぅああ!?はいっっ!」


珍しいものを見た。第四皇子の直立不動の姿である。


梗凪姉様はじっとりとした目で愁様を見た。何か怖いです。


「愁様はこの遊撃隊の隊長ですわよね?勿論、隊員達の監督責任も御座いますわよね?」


「も、勿論ですっ!」


「でしたら、先程のあれ……本来監督が行き届いていたなら未然に防げるはずですわよね?」


あれとは、一瞬視界に入って消えたあれのことだろうか?


「はい、私の監督不行き届きでしたぁ!」


愁釉王、心からの絶叫だった。珍しいものが見れた。

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