第17話 何故見せるかなぁ?

と言う訳で、丙琶に一泊である。


勿論着替えなど持って来ていないし、一泊とは言え海辺の近くの宿屋で寝ずの番といった感じだ。夜も更けて来ると皆で広間に集まって、私の帰郷の話になった。


「もう夜香虫やこうちゅうが綺麗で綺麗で……夜なのに花から花に飛んでいくのが幻想的だったんです!」


何故だか緋劉の独演会場になっていた。絶妙な合の手を入れる漢莉お姉様と梗凪姉様のお蔭で、一晩中緋劉の私の田舎自慢は凄かった。梗凪姉様は頬を染めていた。


「山の上の湖なんて素敵ね!」


「その周りに高山植物の曼夏羅まんげらが群生していまして、紫色の花畑になっていました」


「まあ~乙女には堪らない場所ね!」


乙女ね……漢莉お姉様のきゃっ!みたいな仕草をちら見しながら、お茶を音をたててすすった。


「……で、凛華のお母さんの作っている薬用石鹸がすごく使い心地が良くて、購入してきたんです」


と、話の締めに緋劉が言った瞬間、漢莉お姉様と梗凪姉様の顔つきが変わった。


「ちょっと緋劉ちゃん、その石鹸どう良いの?そういえば今日お肌ぷりっぷりね?」


「凛華はその石鹸の作り方は知っているの?何がお肌に良いの?」


ぎょわっ!?今まで自分には関係ないわ……と思って饅頭を食べていたので、うぐうぐっと饅頭を喉に押し込みながら、背中の布袋の中から軟膏入れの瓶を取り出した。


「うぐっ…えっと、休みの間に母と美容軟膏の研究をしていまして、まだ試作ですが高山植物の『楼露甘ろうろうかん』という実が肌に良いと母が散咲さんざと混ぜてみて、その石鹸にも使っていたのですが……それをこの軟膏にもいれ…」


と、まだ言い掛けていたのに、軟膏の入れ物ごと漢莉お姉様(男)に引っ手繰られた。


「でかしたわ!凛華ちゃんっ有難く頂戴するわ!」


「ちょっとっ!?漢莉っ私にも頂戴よっ!」


お姉様達がきゃいきゃい言い出したので、部屋の隅っこで椅子に凭れて寝ているような気がする?愁釉王様達の周りに、そぉっと消音の術を使ってあげた。


「今の術……何?」


目ざとく緋劉が聞いてきた。


「私は音消しの術って呼んでる。ほら、摩秀と智凛が朝から騒いで煩い時があるでしょ?もうちょっと寝たいな~て時に自分の周りに術を張って、周りの音が聞こえないようにしていたの」


「流石は凛華、便利だ」


えへんっ!私の術は全て生活の知恵から絞り出されているのだ!……ってあれ?これ自慢になるのか?


さてもうそろそろ、夜明けだね~なんて言いながら例の石鹸を緋劉に借りて、顔を洗ってから石鹸を緋劉に返した。


すると緋劉は呑気にもお姉様方の前でその薬用石鹸を見せてしまい、今度は緋劉が自分の石鹸を奪われていた。


なんで隠しておかないのかな……取られる(強奪)のなんか目に見えて分かっていたのにさ。


「実は母さんに定期的に石鹸と軟膏類は送ってもらえるように、既に手配はしているから、心配すんな」


しょんぼりする緋劉の耳元で私がそう囁くと、緋劉が悪い顔をしてにやついていた。


皆が起きてきたところで、例の音消しの術を見た伶 秦我中将から術札を見せなさいと言われたので、臭い消しと音消しの術札を見せた。


熱心に眼鏡を光らせて術札を見ていた秦我中将は、霊術師団に術式を見せたほうがいいと助言してくれた。


「もしかすると新術かもしれません。新術を開発したら師団に届け出を出さねばなりません。私もすべての術式を記憶している訳ではありませんのでね」


成程、新術は届け出が必要と……了解です。


その後、緋劉の薬用石鹸は皆の洗顔に使われていた。なんだか愁様がその使い心地をいたくお気に召されたようで


「楼柑村だな!すぐに取り寄せよう!」


とか叫んでいた。お買い上げありがとうございます。

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