第15話 丙琶に現れしもの

愁様と共に裏庭を抜けると、詰所前に集まっている遊撃隊のお姉様とお兄様達に、帰還のご挨拶をした。


「彩 凛華、只今戻りました!」


「斈 緋劉、戻りました!」


「あら~おかえり!ご実家どうだった?」


漢岱かんたい少尉こと、漢莉かんりお姉様にむぎゅーっと抱きしめられた。久々で骨が折れそう。


「は、はい……皆、元気でした。家族も緋劉の事を気に入ってくれたようで……」


「正月休みに、お邪魔することになりました」


私の言葉を遮るように、緋劉が漢莉お姉様に先に要らぬ報告をしてしまっている。漢莉お姉様は私と緋劉を交互に見てから、にやりと笑った。


「なぁに~?もう婿入りの話をしてきたのぉ~?」


ぎゃああ!!婿入りぃぃぃ!?何それっ!?


「それもいいですね!」


「無い無い無い無いからぁ!」


緋劉が何故だか嬉しそうに答えかけたのを、私の絶叫で何とか遮った。


すると少し離れた所に居た愁釉王から


「夜半に静かにしろ!」


と怒られた。


怒られただろ!!馬鹿緋劉をじろりと睨むと、何故だか緋劉も私を睨んでいた。


な、何よ?久々にやるかっ?ああっ?


臨戦体勢を取っていた私の背後から、ひゅぅぅと冷たい夜風が吹いて来た。


「帰って来た早々で悪いのですが、彩 凛華は風術で何人くらいまでなら運べますか?」


冷風の発生源の伶 秦我れいしんが中将が、闇夜の中から眼鏡を光らせながらこちらに近づいて来た。


「さむっ、すみません。えっと丙琶ですよね……うん、四~五人くらいなら大丈夫だと思います」


「よしっ!では早速、私を運んで……」


「愁様は馬車です」


伶 秦我中将が瞬時に愁様様の言葉をぶった切って返した。早ぇぇ。愁様は夜に騒ぐな、と言ったくせに自分が一番大きな声を出した。


「どうしてだぁ!私だって空を飛びた……」


「何かあって愁様が落ちた時にどうされるおつもりですか?凛華の首が飛ぶんですよ?」


ひえええっ!例えでなく、皇子の御身に何かがあった時は文字通り斬首刑に……やめて欲しい!


「連れて行くのは緋劉、漢莉姉様、漢羅少尉でお願いします……」


万が一落っこちても、大丈夫なしぶとい面子を希望しておいた。すると朱 梗凪しゅこうな少将姉様が、ええ~!?と声を上げられた。


「私も飛んでみたいわっ緋劉君ばっかりずるい~!」


「姉様、またいずれ。もう少し多人数を運ぶ訓練をしてから、姉様をお連れしますので」


「も~う、絶対よ?」


梗凪姉様の碧色の瞳が潤んでいる、お美しい。はい、岩乙女を使ってもう少し練習しますから!


「くそっ仕方ないな。では先陣は任せたっ!」


と言いながら私の周りに岩と緋劉が集まって来たのを、愁様は羨ましげに見つめて来る。愁様は馬車に乗って少しでも早く丙琶に行けっ!


さて、と岩兄弟と緋劉の手を取ろうとして緋劉を見たら、思案顔で私を見ていた。


「凛華、さっき帰りにさ、自分でも風力を使って術の補助?みたいなのをしてたんだ。そうしたら帰りの時間、行きより早く帰れたと思わない?」


おおっそう言えば!


「じゃあ、凛華ちゃんが風術で飛んでいる間も私達も術を使っていたら、いいってことよね?」


「……だと思います」


漢莉お姉様に緋劉は頷いた。


「では、凛華。風術を頼む」


漢羅少尉と漢莉お姉様、そして緋劉の三人に囲まれるようにして彼らの真ん中に立つと、霊力を集中した。


「では、参ります!」


私の掛け声と共に皆の体がふわりと浮いた。

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