第13話 時間と共に変化する

弟妹達は緋劉にべったりで、一緒に沐浴まで入る!と言い出すほどだった。緋劉一人で子供二人は難しかろう……と言うことで、一日交替で緋劉と入ることになった。


ちょっと?姉の私は除け者かい?今日は私と一緒に入ることになった智凛に、散々ごねられた。


そうして摩秀と緋劉が沐浴に入っている間、母さんと薬屋の看板のことを話した。


「へぇ!じゃあもう母さんも独り立ち?」


「やだよ~そんな大層なものじゃないよっ。村長さんが売れ行きもいいし、片手間でなくて本格的に店としてやってみては?と薦めてくれてね。そしたら~父さんも手伝うからってね。だから裏の畑は自分達用にしておいて、半分は畑で作れる薬草を植えようかって……ほら、蔓花草まんかそうとか月菜草つきなぐさとかさ。そう言う訳でさ、父さんは満縞に最後の野菜売りに行っているのよ」


「ああ、そっか……そうなんだ。でも、その薬草なら畑で大丈夫だよね。咳止めと頭痛に使うもんね。で、今は薬草の在庫は?」


母と二人、薬草入れの戸棚に向かう。うんうん、保存状態も良いね。流石母さんは優秀な弟子ですよ~


母さんに朱 梗凪しゅこうな姉様に教えてもらった都で流行っている美容塗り薬を渡し、二人で塗って確かめてみた。母さんは塗り薬の成分が気になるらしい。


「明日からしばらくは私が山に行って薬草摘みしてくるからね」


沐浴から上がってきた摩秀の体を拭いてあげながらそう言うと、母さんは笑顔を浮かべながら


「いつまでここに居れるの?」


と聞いてきた。そうだな~


「余裕を見て十八日くらいかな~」


「そんなに兄ちゃん居てくれるの!?ねえっ魚釣り一緒に行ってくれる?」


摩秀が後ろを振り向きながら沐浴場を見たので、私もつられて見てしまった。そこに沐浴上がりの色気だかなんだか分からないものを、体から発している水も滴る……斈 緋劉が居た。


ええ、ええ、とても綺麗な筋肉がついたお体ですね。


「服を着ろ!」


「下は着てるだろ!」


「肌蹴させるな!ここには女性が二人もいるんだよ!」


「……どこに?」


緋劉は真顔で私だけを見ていた。ええぃ……この初恋の破壊野郎めーー!


智凛を沐浴に入れ、まだ興奮しているのか騒ぎまくる摩秀と智凛を寝かしつけ、そっと裏庭の畑に出た。うねには半分だけ野菜が埋まっていて残りは……蔓花草に代わっていた。


「そうか……うん」


何となく私がいない間に実家を取り巻く環境が変わっていて、知らないことが増えているのに寂しさを感じてしまった。顔を上げると満天の星空だった。昔はよくこの星を見ていたな……


実はずっと気にしていたことがあった。緋劉……壬 狼緋じんろうひは前世の記憶を持っているかどうか。


この三ヵ月…ずっと緋劉を観察していたが、斈 緋劉には前世の記憶が無いということが分かった。


最近ではもういいや……という気分にもなっていた。壬 狼緋と斈 緋劉は別人だ、重ねて見ることはしなくていい、そう思えるようになってきていた。


「お前のとこの家族、皆優しいな……」


「!」


ちょっと脅かさないでよ。緋劉の存在を完璧に忘れていたわ。


「そうでしょう?自慢の家族だもん」


緋劉はゆっくりと近付いて来ると、私の横に立って一緒に星空を眺めた。


「無理言ってついて来て悪かったな」


「別にいいよ~こっちこそ弟達の相手をしてもらえて助かるし、手ごわいでしょう、あいつら?」


緋劉は破顔した。うわっ霊力の粒子がぶわっと空中に飛散する。顔も綺麗だわ、霊力も綺麗だわ、あんた何者よ?あ、前世の友達兼初恋の人だっけ?


「手ごわいけどめっちゃ可愛いな。俺さ、兄弟は兄貴しかいないから下から懐かれるの初めてで……弟っていいな~明日釣りに連れて行ってくれるんだって、楽しみ!」


ん?兄貴?と思ったけど……本当に緋劉は嬉しそうだ。そう思って野暮な事は聞かないでおいた。彼の霊力も明るく弾けて飛び回っているのが見えるしね。楽しい気分に水を差すのは良くないよね。


「まあ、夏の間は……あんたも遊び回って楽しんでくれると、私も連れて来た甲斐があったってもんよ!」


私がおどけながらそう答えると緋劉は、口に手を当てると何かもごもごと呟いている。


所々やべぇとか嘘だろ?とか聞こえるけど、どうしたんだろう……


「さあ、明日も早いからもう寝ましょうよ?寝所が小さいから摩秀達と一緒でごめんなさいだけど……」


そう言って緋劉の背中を押すと、ふと既視感に襲われた。


ああ……この背中、鍛冶を打つ壬 狼緋のあの背中に似ている。


「いや~なんか雑魚寝?とか言うのも初めてで、めっちゃ楽しみ」


緋劉の声に我に返った。


おいこら……坊ちゃんよ?田舎の寝所を舐めんなよ?お前の眠る隙間はこーんな細さだぁ。こーんな……


「嘘でしょう……」


「ここしか空いてないな」


確かに摩秀と智凛が寝ている寝所の隙間は、こーんな細さだった。いや待てよ?私ら二人もそこに入る予定なんだけど。しかも寝所の端の方にしか空きが無い。


緋劉は迷いなく、こーんな隙間しか空いてない寝所に滑り込むと


「来いよ」


と手を伸ばした。なっななな……何だそれは!?何だと聞かれても私を呼んでいる、としか言われかねない仕草だけれども、なんて破壊力だ!


ここで二の足を踏んでいても仕方ない。ゆっくり……本当に致し方なく、緋劉の横の細ーい隙間に「失礼します……」と呟いて滑り込んだ。


何でしょうか、寝所に横になった途端に緋劉さんが私の体を抱え込んでしまいましたけど?なんだか緋劉の体がごつごつしているなあ……男の子だからかな?あ、うちの薬草入りの石鹸の匂いがする。


「緋劉の体からうちの石鹸の匂いするね……」


「!」


緋劉の体が一瞬強張った。緋劉に抱えられているからか……温かくて段々眠くなる。


「体……ゴツゴツして、硬いね……男の子……」


ここで私は寝落ちしてしまった。緋劉が小さく悲鳴を上げて……


「ばれたのか?」


とか呟いていたのは聞こえていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る