第12話 里帰りの道中

「おおっ空が綺麗だね!」


「……」


「山の新緑が美しい!」


「……」


さっきから斈 緋劉がくひりゅうは無言だ。


え~と只今私と斈 緋劉は私の実家、楼柑村ろうかんむらに向けて風術を使って空を飛んで移動しています。


やっぱりこんな風術じゃ怖かったのかな。もう少し飛んで山向こうの村で降りて、そこから馬車移動に切り替えようかな?それでも二日分くらいの時間短縮は出来たし……


頭の中で楼柑村までの地図を描きながら、行程を練り直す。


「緋劉、もう少ししたら村があるからそこで一度降りるね」


「……うん」


こりゃ駄目だ、もしかすると船酔いならぬ、空酔い?かもしれない。もう少し急ごう。風術に霊力を更に籠めた。


恐ろしいほどの沈黙のまま十五分刻後、今回の行程の三分の一位に位置する手毬てまり村に着いた。


村の少し手前の山の少し開けた所に降りた。


「あ~やれやれ!すごく早く着けたね。村はこっちだよ。ちょっと何かお腹に入れて行こうか?」


緋劉は降りた途端、前かがみになって何だか苦しそうだった。やっぱり具合悪いのかな?


「ひ、緋劉…あのね、風術での移動が辛いみたいだしこの村から馬車移動にする?知らないおじさんとかお兄さんとかの乗合馬車になっちゃうけど……」


「風術で大丈夫だ、問題無い」


私の言葉に被せ気味に緋劉が言い切ってきた。若干まだ疲れてるっぽいけど、本人がいいっと言っているんだから、まあいいか。


「うん、分かった。あ、お弁当作ってきたんだよ~今はこれ食べようか?」


「お前が?」


「今、馬鹿にしたよね?あのね、農家の家の出身舐めんなよ!家事全般完璧にこなせますから~」


そう、今日は行程の感じで村に辿り着けないこともあるかもと思い、お弁当と簡易食品を作って持って来たのだ。いざとなれば山で食べ物は確保出来る、元野生児を舐めるなよ!


私は開けた草地の大き目の木の下に敷布を広げると、準備してきたお弁当を開けた。お肉の酢揚げと魚の辛み焼き、野菜の香草炒めと飯巻き、野菜五種の塩漬け、極めつけは甘味だ!渾身の木の実の蒸し饅頭を食べてみろー!


「普通に美味そうだ……」


緋劉は恐る恐る箸をつけて一口食べて、目を丸くした。


「美味いぃ!」


そうだろう、そうだろう!あのやかましい弟と妹を食べたら黙らせることの出来るすんばらしい料理だぞ!


流石は緋劉、高級料理屋さんのご子息らしく料理を食べながら薀蓄うんちくを語り、一品一品感想を述べてくれる。いや~喜んでくれたかな?朝、寮の食堂のおばちゃんに頼み込んで作らせてもらった甲斐あったね。


緋劉はものすごくご機嫌になった。男の子は単純だね~食べ物と好きな物あげときゃ、すぐご機嫌になるね。(参照:弟)


「はい、お茶」


「ん?あれ、ちょっと苦いな……何のお茶?」


「酔い止め入れといたから~空酔いも船酔いも一緒よ!」


緋劉は秀麗な顔をしかめた。


「酔ってないし……」


「何言ってるの~飛んでる途中も何か苦しそうだったし、降りた途端前かがみ……」


「大丈夫だからっ!一々大きな声で言うなよ!」


またぷりっと怒ったね?酔い止めより気付けの薬の方が良かったかな?


その後、緋劉はいつも通りの緋劉に戻っていた。空の上から見ている景色を色々と語り、途中の村に降りて買い食いしたりして、予定より早くその日の夜には楼柑村に到着した。


「わーい、もう着いたよ!一日で来れた~よしっ今度からこの方法で行けるぞ」


私が一人握り拳を固めていると、緋劉は村を見渡している。


「思ってたより大きい村だな」


「また馬鹿にしていたね、村と言ってもそこそこ大き目の集落なの~あ、うちこっちね」


緋劉をいそいそと実家に案内した。あれ?おおっ薬師のお店って看板上がってる!嘘っ!


「ただいまー!」


扉をごんごんと叩いてから、開けた。扉を開けた瞬間、夕飯のおかずの懐かしい煮付の匂いがする。


「あー姉ちゃんだ!ほんとに帰って来たー!」


「ねちゃ~かえりー」


かしましい弟、摩秀ましゅうと妹、智凛ちりんが走って来て抱き付いてきた。


「二人共元気だった~?」


私と弟達の声に台所から母が顔を覗かせた。


「まあ、凛華早かったね。今日燦坂さんざかを出るって言ってなかった?一日でどうやって帰って来たの?あら、その人?ああ、あんたの言ってた同じ隊の軍人さんね!男の子だったの?てっきり女の子だと思ったけど~まあいいか!さあさ、中にお入りよ。まさか、今日帰ってくるとは思わなくていつものご飯よ~あらやだ?お土産~まあっ干し肉じゃないか!ありがとね」


怒涛の母親話術である。どこのおばさんも大概これくらいは独り言?なのか相槌を求めているのか?判断の付かない話術を展開はするけれど、うちの母親も中々の強者だった。


父さんなんて、うん……とか、ああ……くらいしか言葉を挟めないくらいだった。緋劉もあまりの凄さに口を挟めないでいるようだ。あれ?そう言えば……


「父さんは?」


「それがあんたっまさか凛華が今日帰って来るとは思わなくて、野菜売りに満縞まで出かけちゃったのよ~明日には帰ってくると思うからね」


「兄ちゃん……軍人さん?」


「にぃに、だれ?わたし、智凛です」


緋劉は笑顔になると、摩秀と智凛の前に屈んだ。


「初めまして、凛華と同じ軍人の緋劉だよ、宜しくね」


摩秀と智凛は、ぱーっと笑顔になった。おっ?一緒に遊んでくれそうな活きのいい友達を見つけた笑顔ですね?早速、弟妹は緋劉に飛びついた。


さあ、里帰りしたし、の~んびりさせてもらいましょうか!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る