第8話 異形のもの

首都、燦坂さんざかより馬車で一刻ほど南下した所の海沿いの州、丙琶へいべに私達『第壱特殊遊撃隊』は到着した。


「お待ちしておりました、愁釉王しゅうゆうおうこちらで御座いますっ!」


私達が馬車から降りると、足早に軍服に身を包んだ方々数名が近づいて来た。愁様はちょっと手を上げてから、私達を顧みた。


「指示があるまでその場で待機ね、秦我は一緒に」


「はい」


愁様と伶 秦我れいしんが中将の二人は先ほどの軍服の方々と行ってしまった。


「皆、術札の準備と帯剣の点検を忘れずにね」


漢岱かんたいもとい、漢莉かんりお姉様の指示の元、皆で持ち物と武器の点検をした。


「私……実はこんな実戦、初めてなのよね。緊張するわ」


と、朱 梗凪しゅこうな姉様が若干顔を強張らせて私に囁いた。


「そう言えば、姉様にお聞きして良いものか分かりませんが……」


「なぁに?」


「あの山茶花さざんかとかいう女性ばかりの部隊は、実際は何をされている部隊なのでしょうか?」


私がそう聞くと梗凪姉様は苦笑いを浮かべた。


「あ~あの部隊はね、言わばお飾りね」


「お飾り……」


「女性の雇用を促進させようと施政の方針が決まってね。凛華は小さいから知らないかな?あれから体裁だけでも整えておこう、ということになって貴族の……まあはっきり言えば嫁にも行かずぶらぶらしていたお嬢様を掻き集めて、女性達だけの部隊を創設しました、という名目だけの参加するだけの部隊なの」


「参加するだけ……」


ここで珍しく黄 漢羅おうかんら少尉が口を挟んで来た。


「あんな碌でもない部隊を作るから、若い有能な武官が身分だけを振りかざした女共に狙われて、俺が男共に泣き付かれてお嬢との間に入らされたりするんだ!諭すと切れられて怒鳴られて、こっちはいい迷惑だ」


それは……黄 漢羅少尉お気の毒。そんな弊害?が起こっているのね。軍部は見合いの斡旋所じゃないと思うのだけれど……


梗凪姉様を見ると姉様も苦笑いを浮かべていた。


「毎日お茶を飲んで座って話しているだけなのよ?あれじゃあ、軍人とは呼べないわね」


そう言って少し怖い顔をした、梗凪姉様はぐぐっと霊力をあげた。上質で力強い霊力だ。お飾りの部隊に置いておくには勿体ない。愁様の人選は間違っていない……と思う。初恋ぶち壊し野郎以外は……


その私の初恋ぶち壊し野郎、こと斈 緋劉がくひりゅうは少し離れた所で漢莉お姉様(男)に絡まれていた……いえ、教えてもらっていた。


「い~い?緋劉ちゃんは前に出過ぎないことっ!兎に角やばいと思ったら、漢羅兄様の後ろに隠れる事、いいわね?」


自分……じゃなくて漢羅少尉を盾にしろっと言うあたりが岩乙女のすごいとこだ。ぶっちゃけ岩乙女の方が強いと聞いたんだけど?ああ、そうだ!今日は岩乙女の強さの程が確認出来る、絶好の機会ではないか?


「お~い皆、集合~」


愁様の呼ぶ声が聞こえた。気を引き締めると急いで愁様の元に走って行った。


「異形の足取りが分かったよ、丙琶の沿岸付近で発見されたらしい。そのまま警吏に報告がなされて、近隣住民の避難は完了済み。山間に逃げられては深追いが出来ないので、開けた広場の近くまで異形を誘導してくれる手筈になっている」


「人的被害は?」


漢羅少尉の言葉に秦我中将が頷いた。


「お二人亡くなられています。家畜が数十頭食べられてしまいました」


本当に生き物を食べるんだ……怖いね。


「よし……じゃあ行きますか」


「御意!」


愁様の号令の元、足に風術をかけて走り出た皆に続いた。当たり前だがこの移動速度に付いて行けなくちゃ実働部隊では用無しだ。皆、風を切るような速度で移動している。私は移動しながら皆の周りに癒しの術をかけた。これで怪我をしても軽傷ならすぐ治る。


「な~に?気が利くわね!」


と、漢莉姉様のごつい腕でごりごりと小突かれた。痛いって!骨が折れるよ。


「本当に凛華は仙人じゃないのか?」


と、ごつい岩兄弟の兄に並走されながら話しかけられた。両側から岩の圧がすごい。


「先程も言いましたが……普通です。特別な悟りや開眼はありません」


黄兄貴を見上げながら答えた。それでなくとも追憶の落とし人なのに……これ以上人間離れした存在にはなりたくない。


「居た居た~大きいな~変な生き物ぉ~」


愁様の声に皆は一斉に同じ方を見上げた。

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