第6話 綺麗な姉様?達

そう……午前は伶 秦我れいしんが中将による座学だ。愁様とは会議室の前で別れた。溜め息をついてから室内に入った。怜悧な眼鏡が私を見た。


「おはようございます」


「おはようございます……」


少し腰を落として伶 秦我中将にご挨拶してから、足早に長机に座った。勿論、斈 緋劉もいる。大人な私は「おはようございます」と穏やかにご挨拶をした。一応緋劉から、もごもごとご挨拶が返ってきた。


「お♡は♡よ凛華ちゃん♡」


「お、おはようございます。漢岱かんたい少尉……」


私に微笑みかけているのは、岩みたいにごついお兄様?黄 漢岱おうかんたい少尉だ。横に同じ顔の黄 漢羅おうかんら少尉が座っていて、私に手を上げて笑った。そうお二人は双子だ。


「ちょっとぉ凛華ちゃんっ!そんなごつい名前じゃないわよ~私は漢莉かんりよ!間違えないでっ!」


「は、はぃ……すみませ……」


か、絡み辛いなぁ。


そう黄兄弟は双子さんなのだが、同じごつい岩みたいな体躯で漢岱少尉(弟)は中身は乙女らしい。なんでも漢……莉さんは兄の漢羅少尉より強いらしいのだが


「なんで私だけがむさい軍隊に入らなきゃいけないのよ!お兄ちゃんも一緒じゃなきゃいやよ!」


と、岩乙女がごねたので仕方なく、双子同士一緒に入隊したそうだ。


「凛華おはよ~なぁにあなた寝不足じゃない?肌が荒れてるわよ?」


私の横には本物?のお姉様、十七才の朱 梗凪しゅこうな少将がいる。


梗凪姉様は腰に下げた布袋から小瓶を取り出すと、私の顔に塗ってくれた。ものすごく良い香りがする。


「女の子はね、見られて美しくなるのよ?だから自分磨きに手を抜いては駄目よ?」


そう言いながら梗凪姉様は、今日も黒髪に神秘的な碧色の瞳の美しい神仙のようなお姿だ。こんな下々の私にまでお優しい……


梗凪姉様はこんな容姿だが性格は男気溢れる人なのだ。梗凪姉様と岩乙女はとても仲が良い。


梗凪姉様は御三家と呼ばれる名家の一つ、朱家のお生まれで皇族の方々が降嫁などで入られるほどの由緒正しき御家柄だ。


梗凪姉様はこの部隊に入る前は、貴族の淑女ばかりが隊員の『山茶花さざんか』というなんだかよく分からない部隊に在籍されていた。


実はそこで壮絶な苛めにあっていたらしい。


らしい……というのは梗凪姉様本人から聞いたことがないからだ。梗凪姉様は決して人の悪口は言わない。


どこかの初恋ぶち壊し野郎に聞かせてやりたいわ……


姉様の苛め情報はすべて岩乙女から直接聞かされたものだ。ご丁寧にも岩乙女は私を山茶花の詰所まで連れて行き、わざわざ苛めの主犯格を指差して説明した。


「よぉく見ておきなさい。あの真ん中でヘラヘラしている女が宗 明葉そうめいはよ。毒々しい性悪の霊力が見えるでしょう?」


性悪か?どうかは霊力ではよく分からなかったけど、確かに霊質はあまり綺麗とは言い難い女性だった。


苛められていた梗凪こうな姉様は、特殊遊撃部隊が創設されたのと同時に、愁様に推挙されて部隊替えをされて特殊遊撃部隊に入った。恐らくだが苛めに気が付いた愁様が、新設されたことを理由に梗凪姉様を苛めている女達から引き離したのだろう。


それから岩乙女の独断と偏見で、常日頃から言い続けられていることがある。


「愁様と梗凪は絶対にできてるわね!私の女の勘がそう囁くわ!近いうちに婚姻するんじゃないかしら?美男美女よね~悔しいけどっ梗凪が相手じゃ私のつけ入る隙はないわぁ」


色々と突っ込みどころはあるけれど、そもそも岩乙女は女じゃないしとか、隙どころかその美男美女の間に入って行けると思っていたの?とか、それも含めて岩乙女はすごいなと思った。


そうして私の入隊した、特殊遊撃部隊はとても個性的な面子の揃った部隊になったのだった。

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