第3話 前世から今世まで好き……じゃなかった!

それまでは何故生まれ変わったのだろう?もう一度生き直した所で狼緋はいないし……今の家族も優しくて温かくて大好きだけど、だからと言ってこの生に意味はあるのか?


等々……小難しいことを考えてばかりいた私は新たな目標を見出せた。


壬 狼緋に会う事、この一点だった。


六才になって色々と周りの環境、世界情勢なども分かってきた。どうやら今は前の転生人生から百五十年ほど経った世界だということ。


恐らくだが前と同じ国に生まれている、ということ。この事から鑑みるに、壬 狼緋も転生していると推察されるということ。


「非常に興味深い事例ではあるわね……」


「どうした凛華?お勉強、飽きちゃったかい?」


今日は父と一緒に、満縞州の市場に野菜を売りに来ていた。都に出た時には父親は私を書物殿に連れて行ってくれる。書物殿とは、国が管理している白弦国民なら誰でも利用可能な書物を借り出し出来る公共施設だ。


書物殿の利用料は年に五かん…定食一回食べれるかな?ぐらいの金額を払えば何度でも書物を借りられる。


私の最近の楽しみは、野菜売りの時に満縞州まで父に連れて来て貰って、店番をしながら借りた本を読むことだった。


「勉強は楽しいよ!」


「そうか、うん」


ふ〜っ危ない危ない!六才児が小難しい言葉を話していたら父に怪しまれる。それでなくとも、薬草作りでばれるぎりぎりの知識を披露しているというのにさ。


霊力判定の時に、私の霊力値を見た国の役人達は将来は霊術師か軍に就職するように、薦めてきた。私は二つ返事でそれを了承した。

勿論、自分が公役人になれれば家族の家計の助けになるということもあるが、満縞州に勤務出来れば、壬 狼緋に会えるのでは……という淡い期待も影響していた。


私は家業を手伝いながら体を鍛え、山で薬草を摘み薬を作り、それはそれは自分で言うのも可笑しいが日々の生活を頑張った。


そして今日の試験当日……


一次試験は霊力測定から始まる。まず基準値を満たしているかどうかでふるいにかけられ、二次試験は筆記。ここで霊術師か軍人か決められる。


私は軍人を希望し、そして実技試験会場にやって来た。


そして会場に来て驚いたことがあった。あの壬 狼緋の霊力の彼?がここの会場内に居るということだ!気が逸る……彼を捜しに行きたいけど、試験の時間も迫っているので受付を先に済ませよう。


軍人になりたいのも、満縞州で働きたいのも、彼に会いたいが為だった。


声を聞きたい。狼緋の声を聞きたい。どんな声で私の名前を呼んでくれる?声は低いかな?高いかな?


試験会場の中に入ると沢山の厳ついお兄さん達でいっぱいだった。会場の中……会場の少し先に壬 狼緋がいる。どうしよう?受付と書かれた文机の前に居る役人の方に、受験票を出して札を受け取る。


「試験番号は十七番目だから、呼ばれたら実技場で模擬戦だからね」


「はい、宜しくお願いします」


すぐ近くに壬 狼緋が居る。試験も気になるが狼緋も気になる。ふらふらしながら実技場に移動した。


沢山、人が居て霊力も溢れていて狼緋の居場所が分かり辛い。前の方かな?でかいお兄さんばかりで前が見えない。


「三番、四番、前へ」


わあ……っと前方で歓声があがって、番号を呼ぶ声が聞こえた。


もう四番の方まで終わっているのか……前の方に移動しておこうかな?お兄さん達の間の擦り抜けて、闘技場の一番前に移動した。


びっくりした。前に出た途端、すぐ横に壬 狼緋が立っていた。まさか、隣に居るなんてっ!!怖くて横が見れない。間違いない彼だ。何て声をかけようか?


久しぶり?元気?


違うな……こっちは一度殺されてるし、元気どころの話ではないし。


こんな所で会うなんて偶然だね!


偶然どころか、最近巷で問題になっている、憑け回しとかいう犯罪だと思われるんじゃないか?


「あんた、試験受けるの?」


色々声かけの練習を心の中でしていていた所へ突然、横から少年のような声に話し掛けられた。声変わりの終わったくらいの、少し高めの男の声……ああ、ああ!これが壬 狼緋の声!


「はい……」


思い切って顔を上げて隣を見た。


見上げた先には、漆黒の髪色に濃い青色の瞳の、まだあどけない幼さが残る少年がいた。


か、かぁ…格好いい!


壬 狼緋だった。顔は違うけど間違いない。彼が壬 狼緋だ!嬉しくて会いたくて……泣きそうになった。


会いたくて堪らなかった壬 狼緋が私の手元を覗き込んできた。


「あんた、何番?あ……十七番か、俺の相手ね。こんなチビブスの相手しなきゃなんねーの?怠いわ」


一瞬で涙も引っ込んだ。


私の前世から跨いで続いてきた淡い初恋が、脆くも崩れ去った瞬間だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る