第17話 オカマノン
「ええっ?!」と、ベベルゥが驚愕の表情を浮かべた刹那! 先程この学院に入って行ったスーパーエルフのお姉さんが、ベベルゥ達の方を向いてにっこりと微笑んだ。そして、印を結び、呪文の詠誦の準備に入る。そして、眼前の校庭の中央の空間に紫電を纏った歪みが生じ、次の瞬間、十数人の集団が出現した。
その中央に立っている一人の男の背中で
ショーの最後に登場する時に着ている、白地のジャケットの背中に刺繍された鮮やかな蒼龍、見る者の目を奪う青い龍に気づいた聖マリアージュ女学院の生徒達が響めき始める。
そして、その蒼龍のヴァロアを囲むようにして立っている、彼の専属モデル、スーパーエルフの五人組。リスコレに登場するモデル以上、正に女神、伝説のモデルである。そのリーダー格らしいエルフ、ウン・モンが追いかけ回していたあの女性が、高らかに
「これより、この聖マリアージュ女学院にて、『蒼龍のヴァルア』のゲリラファッションショーを行う! そして、今からそのショーに出演するモデル選びを行う!」
『蒼龍のヴァルア』のショーで使う他のモデルは現地調達。ショーの前に、集まってきた女性の中からその場で選んで、モデルとして使うのである。
それを聞いた女生徒達が歓声をあげ、手鏡を取り出し、身繕いを始める。
そして、あの花火を見て此処にやって来たリスモンの女性達。
『蒼龍のヴァルア』。世界で最も謎めいたデザイナー。そのデザイナーの目に留まろうと、
若い女性達が精一杯着飾っていた……って、リル・シル! お前らオカマだろうが!
ドラゴンの涙をベースにした化粧品でパタパタとお色直ししているオカマコンビを他所に、ベベルゥはこの異様な雰囲気に高鳴る心臓を抑えられずにいた。それが何故だか自分でもわからない。そして、そのベベルゥの興奮が正に頂点に達したその時!
「ヴァルアがこっちに来るぞッ!」と、群衆達から次々と広がっていく声。
「仮面のデザイナー! 青色の魔術師!」
「そう! あれが!」
「……『蒼龍のヴァルア』……」呟くベベルゥの前、スーパーエルフを引き連れて現れた仮面の男。長い金髪に隠れていた背中の蒼龍。そして一陣の風。靡く髪の間から、龍の双眸が輝いた。それは真珠で出来た瞳であった。そのヴァルアが真っすぐにこちらへやって来る。ベベルゥ達の隣に居た女生徒達は囁き始める。
「ホントお綺麗ですわぁ! ヒナタマ様!」
「ヒナタマ様のお父様、マヨーク=シャオンル様がデザインなさったドレスですものねえ!」
「きっとヒナタマ様がモデルに選ばれる事間違いなしですわ!」
「そんな事当然じゃありません事? あたくしはお父様のコレクションのステージに立っているスーパーモデルなのよ。あたくしが選ばれない訳ありませんわ! もし、あたくしが選ばれなくて、ノンノや隣にいらっしゃるオカマさん方が選ばれたなら、裸になってこのリスモン中を裸踊りで歩いて差し上げますわ。オーホホホホッ!」
それを聞いてカチンときたリルルとシルル。
ヒナタマ=シャオンル。そう、あの灑音流総帥、マヨーク=シャオンルの娘である。
ヒナタマと彼女の取り巻き(彼女達は学院内ではプチ・シャオンラーとあだ名されている)、即ちプチ・シャオンラー達が会話している側で、メガネを掛けた一人の可憐な少女が、ヒナタマの顔を扇子で扇いでいる。どうやら彼女はヒナタマの付き人のようである。一言で言えば、あか抜けない田舎の純朴なおさげ髪の少女である。着ている服も、日常着に毛の生えた程度で、肌の露出は殆どない。
ヒナタマの足元に汚らしい子犬が擦り寄って来る。
「え~い、ばっちぃ犬! ドレスが汚れる! あっちへお行き!」と、蹴飛ばす。
「キャンッ!」と鳴き声をあげて蹲るその子犬を、ヴァルアの方に視線を奪われているヒナタマに気づかれないようにして、屈み込んだヒナタマの付き人の少女が、よしよしと撫でている。その彼女達の前で、蒼龍のヴァルアの足が止まる。
第17話 了
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