第15話 ヤマンバギャルに遭遇の巻


その翌日の朝、葬儀がしめやかに、そして大々的に執り行われた。


「そうだ! 村長が死んだのも、どれもこれも幕府のせいだ!」


「何故だ! 何故、我々は醜いというだけで弾圧されなければならんのだ!」


「醜いというだけで好きな服も着れない! 今こそ立ち上がる時! 今こそ倒幕の時だ!」


参列者が帰り、父親が眠る十字架の前で一人佇むビンビの後ろに、マントを羽織った一人の黒衣の男の影……。リスモン城門での一件を陰で見ていたあの男である。


「……美しくなりたくはないか……。お前の父が死んだのも、全てお前の顔のせいだ。

 ブスのままで生きるのは、死ぬより辛かろう。美しくなりたくはないか……?」


「美しくなりたい!」と、ビンビは暗黒の誘惑にその身を任せてしまったのであった。


もう晦晦かいかいとして、この時期のパリスの下舂は早い。


「何処でゲリラファッションショーを開くかわかるんですか?」


ガツガツ、ムシャムシャと、オープンテラスのレストランで烹炊きょうすいにかぶりつくパパウとリル・シルにベベルゥが問いかけると、二人と一匹は首を大きく横に振って、


「ねぇ! こっち、ドラゴンの目玉の納豆和え、追加ね!」


「はい!」と返事するギャルソンが、いつの間にか入り込んだ子犬を、


「あっちへ行け!」と蹴飛ばして行く。


「ところでリル・シルさん。その『蒼龍のヴァルア』って何者なんです?」


『蒼龍のヴァルア』……。又の名を『仮面のヴァルア』、『仮面の貴公子』。

名前からして偽名なのは明らかで、その名前から初代聖衣大将軍アマデウス=ヴァルアを崇めるヴァルア教団との関係も噂されている。常に仮面で素顔を隠し、その行動も神出鬼没。リスモンコレクションやミラノスコレクション、エドコレクション等には一切発表せず、世界各地の都市に突如現れて、ゲリラ的にストリートショーを開くデザイナーなのだ。


「……という訳なのよ」


そして、モンドはと言うと、


「そこの美しいマドモヮゼル。それがしと一緒に番茶でも飲まんか?」


  街灯に手を掛け、口に一輪の花を銜えるモンド。その前にいるパリジェンヌ達の動きがピシシッと凍りつく。 │


女の子1「キャハハッ! なあにい?このオジサン!」


モンド 「オディタン?」


女の子2「チョベリバッて感じじゃなあい?」


  「チョベリバ??」


女の子3「チョーMM!」


   「チョーエムエム???」


リスモンのコギャル! リスッコどうわーッ!


その三人組は、ブルー入ってブツブツと呟くモンドを尻目に立ち去って行く。


「……チョベリバ……チョーエムエム……ホワイトキック……?」


燃えたよぉ……。燃え尽きたぁ……。真っ白になぁ……。


モンド、ヤマンバギャルに第一次接近遭遇し、今日、あしたのジョーになる! の巻。


「モンドさん! 恥ずかしいからナンパなんて止めて下さいってば!」と哀願するベベ。


「俺は、お前のショーのモデル捜しを手伝ってやってるんだぞ! お前もやるんだ!」


「そんなぁ!」


陽は陰り、このサン・マルコ通りには多くの人々が行き交っている。モンドは、通行人の女性に片っ端から声を掛け、片っ端からノックアウトされていた。

パパウは相変わらず食い物に命をかけているし、リル・シルはカフェテラスのギャルソンの耳に息を吹きかけ、男性の通行人に色仕掛けしている。

その時モンドが後ろの方を振り返った。そしてゆっくりとある人物の方に歩み寄る。


「立て……」と、ドスの効いた声である。そして、パチンッと鯉口を切るモンド。

エスプレッソを飲んでいた旅の神官らしき口髭ボーボーの中年男が、ノッソリと立ち上がった。その男は、超ド派手な原色を多様した神官服を着ている……。ま、まさかっ?!


「何じゃ若造。わしに何ぞ用か?」


「お前さん、さっき俺を見てクスリと笑いやがったな……」


「おやおや。影で笑われた事が余程気に入らなかったようじゃな。済まなかったの」


素直に自分の非を認めたその男の態度に、拍子抜けしたモンドは、


「ま、まあ、わかりゃあいい……」


「影で笑わずに、思い切り笑ってやるわいッ! ウワッハッハッハッハッ!」




第15話 了

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